アメリカのプロテスタント神学者,倫理学者。ドイツ移民ルター派系(エバンジェリカル派,今はコングリゲーショナル派などと合同教会をつくる)の牧師の子としてミズーリ州ライト・シティに生まれ,同派のエルムハースト大学,イーデン神学大学を経て,イェール大学神学大学院に学ぶ。デトロイトのベセル・エバンジェリカル教会牧師(1915-28)として近代産業都市の問題と取り組み,処女作《文明は宗教を必要とするか》(1927)を出版。1928年ニューヨークのユニオン神学大学に招かれ,60年(当時副学長)隠退するまでキリスト教倫理学の教授。ヨーロッパ大陸におこったK.バルトやブルンナーたちの弁証法神学の運動と呼応して,アメリカにおいて〈ネオ・オーソドクシー〉と呼ばれる神学傾向の代表者となった。彼は自己を神学者と呼ばれるのを好まなかったが,基本的立場は弁証法神学者に近く,主著《人間の本性と運命》全2巻(第1巻1941,第2巻1943)は20世紀アメリカの代表的神学書のひとつである。
彼はしかし教理を研究の対象とするよりは,キリスト教のもつ諸洞察の現代的妥当性を明らかにし,その観点から当時のアメリカのリベラリズムやオプティミズムを批判した。その立場は〈キリスト教的現実主義〉と呼ばれ,出世作《道徳的人間と非道徳的社会》(1932)で強力に打ち出された。その影響はキリスト教界を超えて一般知的世界とくに政治学界に及び,G.F.ケナンやモーゲンソーやシュレジンジャーら今日のいわゆる〈現実主義者〉たちすべての〈父〉と見られるに至った。第2次大戦後はアメリカ国務省の政策立案委員会の顧問として内外政策の方向づけに影響を与えた。ニーバーはバルトやティリヒとともに20世紀の代表的神学者であるだけでなく,その世俗的世界に対する広範な影響において比類のないキリスト教思想家である。
執筆者:大木 英夫
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20世紀アメリカの代表的神学者。エール大学に学ぶ。大恐慌前の自動車産業都市デトロイトで、13年間牧師として説教しつつ資本主義社会の諸問題と取り組み、キリスト教社会主義を提唱した。1929年から約30年間ニューヨークのユニオン神学大学でキリスト教社会倫理学教授として教えるかたわら、ニューディールなどのアメリカの政治、経済、社会問題からナチズムや共産主義、そして第二次世界大戦などの国際問題について、社会キリスト者同盟機関誌『キリスト教と社会』や隔週誌『キリスト教と危機』などで論陣を張り、知識層に大きな感化を及ぼした。聖書的な人間観や歴史観の深い洞察、その現代的考察と応用を提示する彼のキリスト教的現実主義は、戦後のアメリカ教会のみならず、国家の対外政策、ことに対共産主義国政策にも少なからぬ影響を与えている。政治哲学者としての民主主義論と歴史神学者としての終末論的歴史観が有名。
[古屋安雄 2015年10月20日]
『ニーバー著、大木英夫訳『道徳的人間と非道徳的社会』(1974/1998/新装復刊・2014・白水社)』▽『ニーバー著、大木英夫・深井智朗訳『アメリカ史のアイロニー』(2002・聖学院大学出版会)』▽『ニーバー著、高橋義文・西川淑子訳『ソーシャルワークを支える宗教の視点――その意義と課題』(2010・聖学院大学出版会)』
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1892~1971
アメリカの宗教指導者。ミズーリ州のドイツ系移民の牧師の家庭に生まれ,デトロイトの福音教会で牧師を務めたのち,ニューヨークのユニオン神学校の宗教哲学の教授となった。著書は『道徳的人間と非道徳的社会』(1932年)など。神学者として教育著作活動のかたわら,冷戦初期には反共リベラルとして民主党左派の政治活動に参加した。
出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報
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