往ぬ(読み)イヌ

デジタル大辞泉 「往ぬ」の意味・読み・例文・類語

い・ぬ【往ぬ/去ぬ】

[動ナ変]
行ってしまう。去る。
「旅に―・にし君しも継ぎて夢に見ゆ片恋の繁ければかも」〈・三九二九〉
時が過ぎ去る。時が移ってその時刻になる。
「暮れの―・ぬるにやと覚えて」〈大鏡・道長下〉
世を去る。死ぬ。
こも下延したはへ置きてうち嘆き妹が―・ぬれば」〈・一八〇九〉
腐る。悪くなる。
うどんも出しも―・んである」〈咄・臍の宿替・一〉
[動ナ五(四)]に同じ。
「辛い悲しいことは皆一人で背負うて―・ぬつもり」〈露伴・椀久物語
[補説]ナ変は現在関西方言で用いられる。また、近世中期以降、四段化して用いられるようにもなった。

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「往ぬ」の意味・読み・例文・類語

い・ぬ【往・去】

  1. [ 1 ] 〘 自動詞 ナ行変 〙
    1. ある場所から立ち去って、他の場所へ行く。また、もと居た所へ帰る。
      1. [初出の実例]「むら鳥の 我がむれ伊那(イナ)ば」(出典古事記(712)上・歌謡)
      2. 「『いね。いまきこえん』とて」(出典:枕草子(10C終)八二)
    2. (時が)過ぎ去る。経過する。また、ある時期がやってくる。
      1. [初出の実例]「大御足跡(おほみあと)を見に来る人の伊爾(イニ)し方千世の罪さへ滅ぶとそいふ除くとぞ聞く」(出典:仏足石歌(753頃))
    3. 死ぬ。また、消えてなくなる。〔字鏡集(1245)〕
    4. (食べ物などが)悪くなる。腐る。
      1. [初出の実例]「又うどんもだしもいんである」(出典:咄本・新選臍の宿替(1812)一)
    5. 元気がなくなる。しょげる。
      1. [初出の実例]「亀は亀ぢゃが、どん亀ぢゃ。心は往(イ)んだ顔ですっこんでゐる」(出典:歌舞伎桑名屋徳蔵入船物語(1770)口明)
    6. ( 動詞の連用形に助詞「て」の付いた形の下に付いて、補助動詞のように用いる ) ついに…てしまう。
      1. [初出の実例]「へへのくさいで、はながもげていぬる」(出典:咄本・昨日は今日の物語(1614‐24頃)上)
  2. [ 2 ] 〘 自動詞 ナ行四段活用 〙 ( ナ変から転じて、近世中期頃から使われた ) [ 一 ]に同じ。
    1. [初出の実例]「私(わし)ゃ往ぬ事は否(いや)ぢゃ否ぢゃ」(出典:歌舞伎・三十石艠始(1759)序幕)

往ぬの語誌

( 1 )「いぬ」は「いく(行)」に比べて、もとの場所へ帰る、あるいは、消え去るの意味が強く、そのことが、「(時が)過ぎ去る」や「死ぬ」などの意味を派生するもととなっている。
( 2 )完了の助動詞「ぬ」が「いぬ」と同様のナ変型の活用をすることや、[ 一 ]用例に見られるように、完了の助動詞を下接させることがなく、それ自体に完了の意味があったと考えられるところから、助動詞「ぬ」の語源は「いぬ」であるとされる。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

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