徳政文言(読み)とくせいもんごん

改訂新版 世界大百科事典 「徳政文言」の意味・わかりやすい解説

徳政文言 (とくせいもんごん)

正しくは徳政担保文言中世の土地売券に付されている売渡物件の保証契約である担保文言の一つ。徳政令がだされても,売主は当該物件の取戻しを要求しないことを保証した契約条項。中世の土地売券は私的証文の性格が強かったため,種々の担保文言がつけられたが,徳政文言は永仁の徳政令以降の売券に登場した。その後室町幕府の徳政令ではこの私的契約を無効と定めたが,現実には一般の担保文言として定着し,近世初頭まで継続して記されている。徳政文言は,現実の徳政のありかた,それに対する当事者の観念をよく反映し,時代的また地域的に多様な表記がみられる。ここには,公家武家天下一同,本所(荘園領主)・土一揆など各種の徳政令,さらには地発(じおこし)・私徳政からの保証が契約されており,現実の徳政の多様なありかたを知ることができる。またしばしば,代替り,戦乱など徳政の契機も記され,当時の徳政要求・施行の観念もわかる。
徳政
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「徳政文言」の意味・わかりやすい解説

徳政文言
とくせいもんごん

売り手が買い手に対して、売渡行為を保証するために売券(ばいけん)に記した文言の一つ。徳政担保文言ともいう。鎌倉時代後期よりみられる。1297年(永仁5)鎌倉幕府が徳政令を発して御家人(ごけにん)の売却した土地の無償取り戻しを行ったことは、売買行為の秩序を権力によって動揺させることになった。そのため売り手は、たとえ徳政が行われても煩いをかけない、といった文言を記して、徳政が行われた際に売り手が受けるはずの利益をあらかじめ放棄することを約束するようになった。その後室町幕府は頻発する土一揆(どいっき)の要求によってたびたび徳政令を発し、また各地でその地域にのみ適用される在地徳政が行われたため、売券に徳政文言が記される頻度は増した。なお室町幕府の徳政令は、徳政文言が記してある借書の債務破棄を認めている。同じく売渡行為を保証するものとしてほかに、売却でありながら寄進の形式をとる売寄進(うりきしん)、将来の徳政を予想して買い手が売り手に一定の代価を支払う徳政落居(らっきょ)がある。

[馬田綾子]

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世界大百科事典(旧版)内の徳政文言の言及

【売券】より

…代表的なものは〈本直反弁文言(ほんじきへんべんもんごん)〉であって,契約違反による買主の損失を,売主が売価で弁償することを約束するものである。またきわめて特殊かつ重要なものとして〈徳政文言(もんごん)〉がある。鎌倉時代中期以降,売却地などが無償で売主に返還されるという徳政令が発布されるようになると,売券には,徳政の適用から逃れる旨を記入することがきわめて多くなった。…

※「徳政文言」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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