家庭医学館 「心因性視力障害」の解説
しんいんせいしりょくしょうがい【心因性視力障害 Psychogenic Disturbance of Vision】
目自体に異常がなくて視力が出ない状態で、たとえ近視(きんし)や遠視(えんし)などがあっても、めがねでは視力が得られません。心理的要因によるもので、最近では小学校高学年の子どもに多くみられ、女子が男子の2~4倍になっています。
[症状]
自分では視力障害に気づかず、約50%は学校検診で発見されます。目が見えにくいと訴えるのは約30%で、そのほかは、軽い目のけがなどの後の視力低下、目の痛み、頭痛、チックなどがよくみられます。
0.4~0.6程度の中等度の視力低下が多いのですが、0.1以下の重度の視力低下も最近増えています。
生活には支障がないことが多く、ピアノ練習時、試験時、算数の授業時のみ見えないと訴える例もあります。
[検査と診断]
視力検査で視力が出ない場合は、必ず調節まひ剤の点眼によって屈折検査(くっせつけんさ)を行ない、その値を参考にして矯正視力検査(きょうせいしりょくけんさ)を行ないます。それでも視力が出ないときは眼底検査(がんていけんさ)を含めた精密検査を行ない、目には異常のないことを確かめます。目に異常がなく、視神経やものを見る中枢(ちゅうすう)の病気で見えないこともあるため、瞳孔反応(どうこうはんのう)、視野検査、ERG(網膜(もうまく)電図)、VEP(視覚誘発電位)などの電気生理学的検査、頭部X線、CTやMRI検査が必要なこともあります。
視野検査で測定しているうちに視野の見える範囲がどんどん狭くなっていく螺旋状視野(らせんじょうしや)や、見える範囲が極度に狭くなる求心性視野狭窄(きゅうしんせいしやきょうさく)がみられることがあり、診断に役立ちます。色覚(しきかく)の異常がみられることもあります。
子どもの心因性視力障害の場合は、必ず保護者と一緒に面接をします。医師の質問に対して母と子がどのように答えるかも診断に役立ちます。
心因としては、学校や家庭環境におけるさまざまなストレスが原因となることが多いようです。母子関係、両親の不仲、離婚、受験勉強、お稽古(けいこ)ごとの負担、いじめなどさまざまです。
心因性視力障害の特別なタイプに、眼鏡願望(がんきょうがんぼう)があります。裸眼(らがん)では視力がでませんが、凸(とつ)レンズと凹(おう)レンズを組み合わせ、度のないめがねで視力を測ると視力が出て、診断がつきます。
[治療]
治療でたいせつなことは、患者・親と医師との信頼関係です。心因がわかったら、原因となっている環境を改善するようにします。本人には、視力は必ずよくなることを説明し、ストレスを和らげます。
暗示療法(あんじりょうほう)は効果があり、子どもには、つぎに来院するときまでに必ず視力が回復することを話すと、よくなることも多くみられます。母親がだっこして目薬をさす、だっこ点眼療法(てんがんりょうほう)も効果があります。眼鏡願望の子どもにはめがねをかけさせると視力が改善します。
こうした治療は概して小学生はよく反応しますが、年齢が高くなると効かなくなります。原因がわからず視力が長い間改善しないときは精神科または心身症専門医を受診してください。予後はよく、失明することはありません。