眼に入ってきた光は
遠視は「遠くが見えるよい眼」と勘違いされがちですが、眼の屈折状態としては、本当は遠くにも近くにもピントが合っていません。しかし、眼には水晶体というレンズのはたらきをする部分の厚みを増して像の結ばれる位置をずらす「調節」という機能があるので、若い頃は遠くも近くも見ることができます(図73)。
ただ、「調節」の機能は年齢とともに衰えてくるため、徐々にピントを合わせることができなくなり、より「調節」を要する近くから見えにくくなっていきます。遠視の人は正視の人や近視の人よりも多くの調節力がいるので、「若いころは眼がよかったから、早く老眼になった」とよくいわれているのはこのためです。
遠視のおおよその頻度は、新生児100%、幼児60~70%、小学生50%、中学生20%、高校生15%で漸次減少します。老人では水晶体の加齢変化により、再び遠視化したり、近視化することもあります。
遠視では、見る時に絶えず「調節」をしなければいけないため、①眼が疲れやすい(
最も注意が必要な遠視は小児の強度遠視です。遠視が強度になると調節をしてもピントが合いにくいため視力が発達せず、放置すると弱視になってしまいます。
遠視の治療としては、眼鏡やコンタクトレンズによる矯正を行います。とくに事務やコンピュータなど長時間の近見作業に従事する人は調節による眼精疲労を起こしやすいため、年齢にかかわらず近見作業用の眼鏡の装用が、症状の軽減に役立ちます。
調節性内斜視の小児は、適切な眼鏡の装用により内斜視を治療することができます。また、
二宮 さゆり
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
外界からの平行光線が網膜より後ろで焦点を結ぶために物がぼやけて見える状態をいう。屈折力に比較して眼球の軸の長さが短いため、その矯正には凸レンズを目の前に用いて、目のレンズ系の焦点距離を短くし、網膜上にピントがあうようにする。一般に若い人の場合、水晶体を膨らませたり扁平(へんぺい)にしたりする力(調節力)が十分にあるので、多少の遠視があっても、遠近いずれの目標もピントをあわせて見ることができる。しかし、調節をつねに働かせているので、目が疲れる、目の奥が痛い、頭痛がするなどのいわゆる調節性眼精疲労の原因となる。このような状態の場合は、眼鏡をかけて、すこしでも楽になるようにしたほうがよい。
子どもの視力は、生まれたとき、すでに十分な視力をもって生まれるのではなく、普通3歳くらいまでに徐々に成長してくる。しかし、強度の遠視がある場合は、子どもの調節力が大きくても網膜面上にピントをあわせられないので、視力の発達が十分に得られなくなり、弱視となることがある。また、遠視が原因となっておこる調節性内斜視というものもある。ともに正しい屈折検査で早期に遠視を発見し、正しい眼鏡装用などによって視力向上と斜視の矯正をすることがたいせつである。
[中島 章 2024年9月17日]
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…眼の屈折に異常があって,眼の調節を休めたとき,遠方の像が網膜上に結ばない状態。近視,遠視,乱視がこれに含まれる。
【眼の屈折と調節】
眼に入ってくる光は角膜で強く屈折され,瞳孔を通って,水晶体でもさらに屈折され,硝子体ではわずかに拡散して,網膜に到達する。…
…〈両眼の前に常用するに適合した光学器械〉もしくは〈レンズまたは平板を細工して眼前に掛け視力の増進または眼の保護に用いるもの〉と定義される。視力の増進とは,近視,遠視,乱視等の屈折異常を矯正したり,老視(俗に老眼という)による調節の衰弱を補ってやったりして,生活上不便をきたさない視力を得るという意味である。
[視力の増進用の眼鏡]
(1)近視 近視は屈折に比して眼軸が長いか,眼軸に比して屈折が強いかによって平行な入射光線が網膜前方に結像するような眼である。…
※「遠視」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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