内科学 第10版 「心室期外収縮」の解説
心室期外収縮(心室性不整脈)
定義・病態生理
心室期外収縮とは基本周期(通常洞調律)よりも早期にHis束より下の心室で発生する異常興奮波であり,先行するP波を伴わず,幅広いQRS波(0.12秒以上で多くは脚ブロック型)を呈し,基本周期よりも早期に出現する.
心電図による分類
1)心電図における出現様式による分類:
a)単発性期外収縮:心室期外収縮による逆行性伝導と次の洞結節からの電気的興奮が房室接合部で衝突して消滅し,心室期外収縮をはさむ周期が洞周期の2倍となる(代償性休止期;compensatory pauseを有する)場合と,心室期外収縮の連結期が短い場合には逆行性伝導が先行する洞性心拍における房室結節絶対不応期に遭遇し,代償性休止期を認めない(間入性;interpolated)VPCに分けられる.
b)心室性二段脈(ventricular bigeminy):より長い心周期において心室期外収縮が出現した場合,代償性休止期を伴い,その後の心室期外収縮が出現しやすくなるため,1つの洞性心拍ごとに心室期外収縮を認める心室性二段脈となる.また,2つの洞性心拍ごとに心室期外収縮が出現する場合を心室性三段脈(ventricular trigeminy),3つの洞性心拍ごとに出現する場合を心室性四段脈(ventricular quadrigeminy)とよぶ.
2)起源の数による分類:
心室期外収縮のQRS波形はその心室起源により異なる.したがって心室期外収縮のQRS波形が1種類の場合には単源性(monofocal)とよび,2種類以上存在する場合には多源性(multifocal)とよぶ(図5-6-23).
3)連続性による分類:
心室期外収縮が2拍以上連続する場合short runとよび,2連発をcouplet,3連続をtripletとよぶ(図5-6-23).3連続以上の場合には心室頻拍(VT)とよばれる(図5-6-24).
4)出現タイミングによる分類:
a) R on T現象:心室期外収縮が先行心拍のT波の頂点あたりに出現する現象である(図5-6-23).このタイミングは心室性受攻期とよばれ,心室細動を惹起しうる.受攻期はT波の頂点の直前から4 msec程度続くが,病的状態(心筋虚血や心不全,低カリウム血症など)ではU波終末部まで続くこともあり注意を要する.
b)VPCの連結期の問題で,洞性心拍による正常QRSの直前に出現すると,心室期外収縮と正常心拍との融合収縮(fusion beat)を示す.
臨床的意義
成人においては,Holter心電図による24時間連続記録で心室期外収縮は約30%にみられるが,そのほとんどは無症状で放置してよい.ただし基礎心疾患を有する例や,運動による増悪を認める例では,心室期外収縮は生命予後悪化因子と考えられ,注意を要する.また動悸などの自覚症状を認める例では,生活の質(quality of life:QOL)の著しい低下をきたす.さらに持続性心室頻拍/心室細動のトリガーとなることもあり,重症度の評価として,①Lown分類,②基礎心疾患,特に心筋梗塞の有無,③低心機能,心不全の有無,④症状,特にAdams-Stokes発作の有無,⑤運動負荷試験への反応,⑥臨床心臓電気生理検査による持続性心室頻拍/心室細動の誘発性,⑦加算平均心電図による遅延電位(late potential)による心室内伝導遅延の有無などによる総合的判断を要する.Lown分類は本来急性心筋梗塞に伴う心室期外収縮の重症度分類として使われるものであるが,重篤な基礎心疾患を有する例では突然死の独立した危険因子と考えられている.グレードⅠ(散発:29個/時以下),グレードⅡ(頻発:30個/時以上),グレードⅢ(多源性),グレードⅣa(2連発),グレード Ⅳb(3連発以上),グレードⅤ(R on T型)に分類され(図5-6-23),グレードⅡ以上は心室細動や持続性心室頻拍を惹起しやすいことから警告不整脈,グレードⅢ以上は悪性心室期外収縮とよばれるが,基礎心疾患を伴わない心室期外収縮にも適用されるかについては異論もある.
治療
心室期外収縮はほとんどが放置もしくは経過観察でよいものであり,その増悪・誘発因子である精神的ストレス,肉体的ストレス,睡眠不足,不規則な生活,飲酒,喫煙,コーヒーなどを避け,ライフスタイルの改善を指導することが重要である.しかし,基礎心疾患のない心室期外収縮でも動悸などの症状が強い場合や心室期外収縮依存性に心機能障害を認めるとき,抗不整脈薬やカテーテルアブレーションの適応となる.基礎心疾患,特に心機能低下の有無によって抗不整脈薬の選択は異なる.
1)基礎心疾患のないVPC:
動悸などの症状が強く,QOLの低下を認める場合には,抗不整脈薬としてNaチャネル遮断薬であるⅠ群薬を用いる.具体的にはⅠa群(ジソピラミド,シベンゾリン),Ⅰb群(リドカイン,メキシレチン,アプリンジン),Ⅰc群(プロパフェノン,フレカイニド,ピルジカイニド)が用いられるが(表5-6-4),運動・感情で増悪ないし誘発される場合にはβ遮断薬がよい適応となる.
2)基礎心疾患を有する心室期外収縮:
心室頻拍/心室細動による突然死の予防を目的として,1980年代に特に心筋梗塞後の心室期外収縮に対するⅠ群抗不整脈薬の功罪が問い直された.CAST(cardiac arrhythmia suppression trial)では,心筋梗塞後の心室期外収縮の抑制の目的で投与されたⅠc群薬(エンカイニド,フレカイニド)における突然死および全死亡の頻度が偽薬投与群に比しむしろ2倍程度高いことが報告された.そのおもな原因として,催不整脈作用(I群薬は病的心筋の伝導遅延を助長し心室頻拍/心室細動などの悪性頻脈性不整脈の出現と持続を増悪・誘発する作用を有する)と比較的強い陰性変力作用(Naチャネル抑制による心筋収縮抑制)があげられ,以後Ⅰ群薬は基礎心疾患合併例に対しては禁忌となり,Ⅲ群薬が第一選択治療薬となり,VPC抑制および心室頻拍/心室細動予防による突然死予防効果が実証されている.しかし,Ⅲ群薬のなかではアミオダロンによる肺毒性,肝毒性,甲状腺毒性などの重篤な心外性副作用などを認めることがあり注意を要する.これまで心筋梗塞症例や心筋症による心不全症例の心室不整脈に対して生命予後改善が検証されているのはアミオダロンやソタロールなどのⅢ群薬とβ遮断薬のみである.また抗不整脈薬ではないが,ACE阻害薬やARBなどのレニン-アンジオテンシン-アルドステロン系(RAAS)阻害薬が心不全症例における突然死の予防効果を有することも報告されている(upstream治療).[青沼和隆]
■文献
笠貫 宏:心室性不整脈.内科学 第九版(杉本恒明,矢崎義雄編),pp472-480,朝倉書店,東京,2007.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報