急性前立腺炎

EBM 正しい治療がわかる本 「急性前立腺炎」の解説

急性前立腺炎

どんな病気でしょうか?

●おもな症状と経過
 主として尿道から侵入した細菌が、その奥に位置する前立腺(ぜんりつせん)に感染しておこる病気です。扁桃腺炎(へんとうせんえん)、耳下腺炎(じかせんえん)など別の場所で炎症をおこしている原因の病原体が、血流に乗って前立腺に移行し炎症をおこすこともあります。急激に発病するのが特徴で、悪寒(おかん)、発熱、頻尿(ひんにょう)、排尿痛などの症状がみられます。放置すると炎症が進んで、排尿困難、排便時の痛みなどをおこすこともあるので注意が必要です。
 肛門から指を入れる直腸診(ちょくちょうしん)で、前立腺の腫(は)れや痛みを確かめることができます。また、尿に膿(うみ)や細菌が混ざるので尿検査を行えば診断は容易です。

●病気の原因や症状がおこってくるしくみ
 原因となる細菌は、大腸菌、プロテウス属、クレブシエラ菌、黄色ブドウ球菌、連鎖球菌、淋菌(りんきん)などです。脱水や、長時間にわたって自転車やオートバイなどに乗って会陰部(えいんぶ)を圧迫したりすると、この病気になりやすいと考えられています。また、飲酒や不潔な性交渉なども、この病気の引きがねになることがあります。

●病気の特徴
 子どもにはほとんどみられませんが、思春期以降の男性なら、どの年代にもみられます。前立腺肥大症に合併しておこることもあります。また、糖尿病の人は感染症に対する抵抗力が弱いため、この病気になることがあります。


よく行われている治療とケアをEBMでチェック

治療とケア]抗菌薬を用いる
[評価]☆☆
[評価のポイント] 急性前立腺炎において、抗菌薬の使用の有無で効果を比較した臨床研究は限られていますが、原因から考えても抗菌薬の有効性は広く認識されており、起因菌が確認できるまでは前立腺に移行性のよい(相性のよい)広範囲の菌に有効な抗菌薬を内服あるいは点滴静脈注射で投与します。(1)(2)


よく使われている薬をEBMでチェック

抗菌薬(点滴静脈注射)
[薬名]シプロキサン(シプロフロキサシン)(1)
[評価]☆☆
[薬名]ビクシリン(アンピシリンナトリウム)(1)
[評価]☆☆
[薬名]モダシン(セフタジジム水和物)
[評価]☆☆
[薬名]ゲンタシン(ゲンタマイシン硫酸塩)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 急性前立腺炎に有効であることが専門家の意見や経験から広く認識されています。

抗菌薬(内服)
[薬名]シプロキサン(塩酸シプロフロキサシン)(1)
[評価]☆☆
[薬名]バクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)
[評価]☆☆
[薬名]クラビット(レボフロキサシン水和物)
[評価]☆☆
[薬名]サワシリン(アモキシシリン水和物)
[評価]☆☆
[評価のポイント] 急性前立腺炎に有効であることが専門家の意見や経験から広く認識されています。

総合的に見て現在もっとも確かな治療法
まず抗菌薬を用いる
 発熱、悪寒、排尿障害、後部尿道付近の緊満感(きんまんかん)と疼痛(とうつう)(うずくような痛み)といった前立腺炎の症状がある場合、細菌の感染によるものかどうかを見極めるために尿中の菌と白血球を観察する必要があります。
 前立腺を含む尿路の感染症は、大腸菌とプロテウス属、クレブシエラ菌のいずれかによることが多いのですが、これらの検査の結果、細菌によるものであることが明確になったら、まず抗菌薬で治療を開始します。用いるのは、ニューキノロン系または第三世代セフェム系とアミノグリコシド系を組み合わせたものです。

非細菌性にも抗菌薬を使用
 前立腺からの分泌(ぶんぴつ)液中に白血球は増えているものの、細菌の培養は陰性(非細菌性前立腺炎)であれば、なんらかの微生物が原因と考えられます。この場合、マクロライド系のエリスロシン(エリスロマイシン)、テトラサイクリン系のビブラマイシン(塩酸ドキシサイクリン)のほか、バクタ(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)などが有効なことがあります。臨床研究で確立された治療法ではありませんが、いずれかを用いて経過を観察することが一般的に行われています。

膿がたまったら手術が必要
 細菌性の炎症が強く1週間以上の抗菌薬による治療のあとも膿がたまり、改善がない場合は、前立腺を切開して膿をだす必要があり、入院して手術を受けることになります。

(1)Brede CM, Shoskes DA, et al. The etiology and management of acute prostatitis. Nat Rev Uro. 2011; 8: 207-212.
(2)Grabe M, et al. Guidelines on urological infections. European Association of Urology, 2011.

出典 法研「EBM 正しい治療がわかる本」EBM 正しい治療がわかる本について 情報

家庭医学館 「急性前立腺炎」の解説

きゅうせいぜんりつせんえん【急性前立腺炎 Acute Prostatitis】

[どんな病気か]
 尿道(にょうどう)から侵入した細菌が、尿道の奥にある前立腺に感染しておこる病気です。前立腺が炎症のために充血して腫(は)れあがります。
 尿道から細菌が入る以外に、からだのほかの場所に感染症がある場合には、その場所の細菌が、血流にのって前立腺に運ばれ、感染がおこることもあります。
 高齢者におこる前立腺肥大症(「前立腺肥大症」)とは異なり、思春期以降の男性なら、年齢に関係なくおこりますが、前立腺肥大症にかかっている患者さんに合併しておこることも多いものです。
 また、糖尿病の人は、細菌に対する抵抗力が弱いため、感染をおこしやすいので、急性前立腺炎にかかりやすいことがあります。
[症状]
 尿道や会陰部(えいんぶ)に痛みがあり、とくに排尿の終わりに熱感や痛み(排尿痛)、尿が出きっていないという残尿感(ざんにょうかん)を感じ、頻尿(ひんにょう)(排尿の回数が多くなる)になります。
 尿は濁って、排尿の終わりに血尿(けつにょう)(「尿の異常のいろいろ」の血尿)が出たり、尿道から膿(うみ)が出たりします。高熱をともない、食欲不振などの全身症状もおこります。
[検査と診断]
 尿の中に細菌や膿が出ていないかを検査します。尿中に膿が出ていて、高熱をともなっていれば、急性腎盂腎炎(じんうじんえん)(「急性腎盂腎炎」)か急性前立腺炎のどちらかです。
 肛門(こうもん)から指を入れ、前立腺をさわってみれば、診断がつきますが、急性期に前立腺をさわると悪化することがあるので、前立腺マッサージ(コラム「前立腺マッサージの効果」)は、初回には行なわないこともあります。
[治療]
 高熱があって重篤(じゅうとく)(病気が重い)な場合、入院が必要になります。
 入院後、細菌に効果のある抗菌薬が点滴によって使用されます。これで熱が下がるのに4、5日はかかります。その後は飲み薬にかわり、退院となります。
 病気が重くなければ、通院して薬の服用だけで治療できます。
 尿検査で膿が出なくなっても、分泌腺(ぶんぴつせん)に巣くっている菌を完全に除くことはなかなかむずかしいことが多く、退院しても、飲み薬を2~4週間飲み続けます。
 水分を多めにとって尿量を増やし、指示された薬をきちんと服用し、医師がよいというまで治療に通うことがたいせつです。
 急性前立腺炎のうちにきちんと治さないと、治りにくい慢性前立腺炎(「慢性前立腺炎」)になったりします。

出典 小学館家庭医学館について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「急性前立腺炎」の解説

急性前立腺炎
きゅうせいぜんりつせんえん
Acute prostatitis
(お年寄りの病気)

高齢者での特殊事情

 急性前立腺炎は一般に大腸菌などが起炎菌で、発熱、尿道痛、頻尿などの症状が出ますが、高齢者では前立腺肥大症や尿道留置カテーテルなどの原因による慢性尿路感染症が急性増悪して症状が出る急性前立腺炎が特徴といえます。慢性尿路感染症の起炎菌は弱毒性で抗菌薬が無効の場合が多く、急性増悪時の治療を困難にしています。免疫能の低下した高齢者では容易に敗血症に移行します。陰嚢内膿瘍(いんのうないのうよう)を形成し、時には重篤なフルニエ壊疽(えそ)ガス壊疽)に陥ることもあります。

治療とケアのポイント

 したがって高齢者では急性増悪の前立腺炎にならないように慢性尿路感染症の予防に努め、日頃の尿路管理を適切に行うことが大切です。また前立腺肥大症などの原因疾患の治療も重要となります。

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

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