翻訳|radicalism
ラテン語のradix(根)という語にその語源を求めることのできるラディカリズムを,日本語では急進主義と訳している。この言葉は大きくいって2種類の使われ方をする。その第1は,指示する対象の内容が一定せず,指示する人の立場やその背景の時代や地域によって意味内容が異なってくる。したがってそれは幅広い対象について使用され,それゆえあいまいさを免れない。第2の用法は,西ヨーロッパの近代政治史上の特定の立場を指示するものであって,この場合ははっきりした歴史的限定を与えることができる。
第1の用法は一般的であるが漠然としている。それは語源のradixと直接的に関連して,一定の純化した原則にもとづく視角から,既存の社会体制や政治体制また思想などを,根底的に批判し,あるいは変革しようとする態度や立場を指して用いられる。ここで〈一定の純化した原則〉というとき,そこに特定の思想体系や理論体系が想定されているわけではない。例えばファシズムをラディカリズムと名指すこともあり,他方またボリシェビズムをこの言葉で,西欧流の社会民主主義から区別しようとすることもある。また〈純化した原則〉という場合,この純化には情緒的態度をともなうことがあり,この点を急進主義にともなう一つの重要な性格とみなす人々もいる。
自由主義者や欧米の議会制民主主義の伝統を守ろうとする立場から,この伝統を破る危険があるとみなされた左右両翼の政治潮流に対して,ラディカリズムとの指摘がなされる場合がしばしばあった。またマルクス主義はアナーキズムやサンディカリスムを,没落しつつある小ブルジョアの不安にかり立てられた不安定で過激な運動潮流として,この言葉によって特徴づけようとした。
しかし1960年代になると,以上のように非難や批判をこめた使われ方だけでなく,既存の事態を人間性の根底に立ちもどって追究し,変革するという本来の積極的な意味に立ちもどった用法が支配的となる。この背景にはアメリカのベトナム侵略の拡大,さらに高度に発展した資本主義国でのいわゆる〈管理社会化〉の進展があり,それに対するものとしての〈新左翼〉の登場,フランスでの〈五月革命〉の出現があった。そしてこれらの運動潮流に対して,新しい変革の地平を開く可能性あるものとして,ラディカリズムの名が冠せられた。
以上のように第1の用法における急進主義という言葉はきわめて多義的である。しかし第2の用法は,この言葉によって指示される対象をヨーロッパ近代政治史上に特定しうるものである。すなわち急進主義は,イギリスとフランスにおいて,民主主義的政治改革を実現しようとした特定の政治的態度と政治集団に対して用いられ歴史的に定着しているもので,ほとんど固有名詞的な性格をもっている。
まず18世紀後半のイギリスで,ジェームズ・フォックスの〈ラディカル・リフォーム(急進的改革)〉の名で知られる議会改革運動を指示する言葉として,それは使われるようになった。この運動は,名誉革命後も選挙権を持たなかった中間階級と呼ばれるブルジョア層が中心となって,旧来の議会のあり方を根底的に批判するものであった。それは議会外での大衆的運動の性格をも帯びるようになり,議会内の政治家のなかからも,この運動に同調する人々が出た。そうした政治家は急進派と呼ばれた。1832年の選挙法改正で中間階級は選挙権を獲得し,一応その目的を達した。しかし以後も,労働者階級に選挙権を拡大しようとする議会政治家が出現し,彼らを急進派と名づけるようになる。
こうしてイギリスで生まれたこの言葉は,フランスに輸入されて,ルドリュ・ロランらの共和派に冠せられることになる。七月王政下の1838年に,彼は普通選挙の実現こそが革命を予防しうるものだという立場を明確にし,政治的改革の重要性を強調した。これは七月王政期前半の革命的共和主義,つまり民衆運動と結合した体制変革の立場と手を切り,政治的議会制的改革に目標を限定していくものであった。以後このような点を急進主義の特徴とみなすことができるようになる。
第二帝政末期の1869年に議会選挙に立候補したガンベッタが政綱とした〈ベルビル綱領〉は,フランスにおける急進主義の立場を体系的に提示したものとみなされた。70年代の第三共和政の成立にあたり,ガンベッタは政治制度の共和主義化を唱えつつ,小市民層の社会的な保守性をこの共和主義信仰へと結集したのである。1902年に急進党内閣が成立し,急進主義は第三共和政特有の政治的雰囲気となったといわれる。その特徴は,諸制度の近代的改革を唱えて,人々に共和政への制度信仰をうえつけ,体制のトータルな改変は回避して所有権を保守するという政治的態度にある。
→漸進主義
執筆者:喜安 朗
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…とくに後者は,封建的伝統を攻撃するばかりではなく,いまや〈新たなるものの伝統〉として市民文化の世界に君臨することになったブルジョア的世界観そのものにまで挑戦した。その結果,この反伝統の運動は旧慣墨守の保守主義への反対にとどまらず,一部に,制度,道徳,知性そのものまでも根源的な懐疑精神によってとらえ返そうとする急進主義(ラディカリズム)の風潮を生み出すことになった。とくに風俗やライフスタイル面でのラディカリズムは,日本の〈モボ・モガ〉現象にみられるように,醇風美俗世界の強い情緒的反発に出会うことになった。…
※「急進主義」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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