体制ということばはさまざまに用いられる。たとえば、戦時体制とか選挙体制という場合には、国家とか政党などの当面する目標へ向かっての一時的な姿勢を意味するから、態勢という表現のほうがふさわしい。自由主義・民主主義体制とか全体主義・独裁主義体制というときの体制は、イデオロギー上の違いを踏まえた政治の仕組みまたは政治構造を意味し、狭義の社会体制と同じではない。また、体制・反体制という場合には、体制とは現存の支配的な政治権力(またはその担い手である支配層)とそれに支えられた現行の政治秩序を意味し、現行の政治秩序の維持または変革が問題になる。
さらに、社会学で用いられる社会体系または社会システムsocial systemという概念も社会体制と混同されることが多いが、もともとシステムとは、構成諸要素間の相互依存と相互作用のうえに成り立つ全体的なまとまりないしは均衡体を意味するから、社会学的な概念としての社会体系(行為、組織、制度などがなんらかの仕方や形で一定の秩序だった関連のもとに置かれ、相対的な統一性をもつ力動的全体)は、社会体制という概念と抽象的・一般的なレベルでは共通する。つまり、社会体系も社会体制も、構成諸要素相互間の作用と依存のうえに成り立つ動的均衡体または相対的統一体である点では異ならないが、ただ違うのは、機能主義的社会体系概念が超歴史的・抽象的に規定された概念であるのに対して、社会体制は歴史的発展過程における特定の段階にある社会をさす概念であり、優れて歴史的な個体である、という点である。
[濱嶋 朗]
ゾンバルトの『近世資本主義』(1902)によると、この意味での社会体制としての資本主義は、(1)精神または経済志向(営利原則、個人主義、経済合理主義)、(2)組織または経済秩序(自由経済、私経済、分業、交換経済など)、(3)技術(高度の生産性と収益性を可能にする)という3要素の構造的統一であるとされる。しかし、社会体制を統一する原理(体制原理)についての考察が不十分なため、それぞれの歴史的発展段階にある社会体制を区別し、また体制間移行を説明するうえで種々の難点をもっている。その点で社会体制のより正しい概念を提出したのはマルクス主義であるが、それと関連して高島善哉(ぜんや)の所説をあげると、体制とは「特定の歴史的原理によって一義的に規定された人間行為の構造連関」であるという。この場合の構造連関とは、政治的、経済的、法律的等々の行為連関の統一体のことで、歴史的変動(発展)を推進する中心原理である体制原理によって一義的に規定されており、その意味で社会体制は優れて歴史的個体にほかならない、とされる。つまり、社会体制は封建体制(身分または土地所有の支配)→資本主義体制(資本の支配)→社会主義体制(労働の支配)という歴史的発展のなかでとらえられてくることになる。
この意味での社会体制はマルクス主義における(経済的)社会構成体の概念とほとんど同じ意味をもつ。社会構成体とは、一定の生産力水準によって規定された生産関係の総体(=経済的土台)とその上に成立する上部構造(政治的・法律的次元とそれに照応する社会意識形態とからなる)をひっくるめた立体的全体をいう。土台における変化(生産力の上昇→生産関係の変化)はやがて上部構造の変化を引き起こし、その総体としての社会構成体そのものの変動をもたらすというのが、唯物史観における社会構成体の構造と変動に関する考え方である。
なお、社会体制というときには、体制・反体制の例にみられるように、それは土台と上部構造の統一体(=社会構成体)ではあるが、これに加えて政治権力による政治的統一体という側面を強調して用いることが多い。経済的に支配する階級が同時に政治的にもイデオロギー的にも支配し、この支配体制を強固にして現状維持を図ろうとするなかで、社会構成体は政治権力を中核とした統一体としての意味を帯びてくるわけである。
[濱嶋 朗]
『ゾンバルト著、岡崎次郎訳『近世資本主義』Ⅰ・Ⅱ(1942、43・生活社)』▽『ゾンバルト著、梶山力訳『高度資本主義』(1940・有斐閣)』▽『高島善哉著「体制」(『社会科学講座3 社会構成の原理』所収・1950・弘文堂)』▽『マルクス著『経済学批判』(武田隆夫他訳・岩波文庫/杉本俊朗訳・大月書店・国民文庫/宮川実訳・青木文庫)』▽『マルクス著『資本論』(向坂逸郎訳・岩波文庫/岡崎次郎訳・大月書店・国民文庫/長谷部文雄訳・青木文庫)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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