恒星自動追尾装置(読み)こうせいじどうついびそうち(英語表記)star tracker

改訂新版 世界大百科事典 「恒星自動追尾装置」の意味・わかりやすい解説

恒星自動追尾装置 (こうせいじどうついびそうち)
star tracker

天体観測装置の多くは天体の動きを追尾する機構をもつ。地上におかれた天体望遠鏡は赤道儀式架台と時計装置によってほぼ十分な精度で天体の日周運動を追尾する。大型の電波望遠鏡は経緯儀式架台に乗せられているが,コンピューターを使って制御が行われている。近年,天体観測装置のコンピューター制御はきわめて進歩し,望遠鏡のたわみや大気差による補正をすることによって,赤道儀式,経緯儀式を問わず数秒角の追尾誤差が実現されている。コンピューターでは補正できない部分は人間によるガイドかスターセンサーを使った自動追尾に頼ることになる。一方,人間の乗らない気球やロケット,人工衛星からの天体観測では自動制御系が絶対に必要である。飛翔(ひしよう)体は基準となる土台がないので,まず地磁気センサージャイロスコープ,太陽センサー,地球センサーなどを使っておおまかな姿勢を決める。よく補正すればこれで数分角程度の位置決めができる。次に比較的広視野のテレビカメラ式のスターセンサーで恒星をとらえ,その配置パターンを照合することで目的の天体位置を確認する。パターンの照合は自動化することもできるが,地上のモニターテレビを見つつ人間が行ってもよい。スターセンサーの感度がよければ暗い星まで見ることができ,視野が狭くてもすむ。視野が広いと星はとらえやすいが位置の精度が悪化する。

 自動追尾制御のためのスターセンサーは,より精度の高い狭視野のものを別にそなえるのがふつうである。この場合,目的の天体が明るいか暗いかによって方法が異なってくる。目的の天体が明るい恒星であれば,それ自体をつねに視野の中央にくるように追尾すればよい。観測に使われる望遠鏡の焦点に集まる光の一部を,半透鏡か二色分解鏡で分けてセンサーに入れれば光量の点でも位置精度の点でも有利である。目的の天体が暗い場合や星雲のような場合は,近傍の明るい恒星を使ってガイドを行う。この場合には視野の回転を補正するために,ガイド星は2個以上必要である。

 実際のスターセンサーの受光素子としては,基本となる田型のフォトダイオードは感度の点で十分とはいえず,光電子増倍管,イメージダイセクターチューブ,電荷結合デバイス(CCD)などが使われる。光電子増倍管を使う場合は,四角錐反射鏡を使って光をわけ,それを4本の光電子増倍管で受けるのを基本とするが,穴のあいた回転板を使って1本の光電子増倍管ですませることもできる。田型センサーや光電子増倍管のセンサーの欠点は視野を走査する機能がないので,視野を広くとれないことである。視野をとると,位置検出の精度が落ちるだけでなく,背景光の影響が大きくなる。イメージダイセクターチューブは電子的な走査機能をもっているが,光の蓄積能力がなくそれだけ感度が落ちる。両方の能力をそなえた素子としてCCDがある。

 姿勢制御系には一般に速い応答速度が要求されるが,これは感度を下げることになり,よい位置検出精度と相入れない。ジャイロスコープは時間とともに変動し,絶対精度は悪いが,スターセンサーを基準としてときどき較正すれば,実用上支障なく使える。人工衛星ではスターセンサーは蓄積時間を十分にとり,速い応答はジャイロにまかせるという2段構えの方法をとることが多い。

 望遠鏡を動かすアクチュエーターは地上の場合はモーターがふつうであるが,飛翔体の場合はガスジェットやモーメンタムジャイロ(はずみ車がその代表例)を使って飛翔体全体を目的の方向に向けることが多い。土台となるものがないので反動でサーボ系が不安定にならないように,電気的な補償回路が組み込まれる。角度1分以下の制御は全体を動かして制御するのはむずかしく,小さな鏡を振って速い応答を確保している。カセグレン式の望遠鏡では副鏡を振ることも行われる。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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