(読み)ノウ

デジタル大辞泉 「悩」の意味・読み・例文・類語

のう【悩〔惱〕】[漢字項目]

常用漢字] [音]ノウナウ)(呉) [訓]なやむ なやます
思いわずらう。なやむ。なやみ。なやます。「悩殺悩乱懊悩おうのう苦悩煩悩ぼんのう
病気。「御悩

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「悩」の意味・読み・例文・類語

なや・む【悩】

[1] 〘自マ五(四)〙 (「なえる(萎)」の派生語か)
肉体的に苦しむ。難儀する。妊娠や出産で苦しむ。また、病気になる。
書紀(720)推古元年四月(岩崎本訓)「乃ち廐(うまや)の戸に当りて、労(ナヤム)たまはずして忽に産(あ)れませり」
※枕(10C終)二七六「身にやむごとなく思ふ人のなやむを聞きて、いかにいかにと、おぼつかなきことをなげくに」
② 精神的に苦しむ。思いわずらう。当惑する。
源氏(1001‐14頃)明石「いぶせくも心にものをなやむかなやよやいかにと問ふ人も無み
浮世草子・好色五人女(1686)五「数々の文に気をなやみ人しれぬ便につかはしけるに」
③ 思いわずらっていることを口に出して言う。とやかく言う。あれこれと非難する。
※狭衣物語(1069‐77頃か)四「うち続き、春日の神もいかが思さんと世の人もなやめど」
④ 動詞の連用形について、その動作が順調に行なわれない意を表わす。「行きなやむ」など。
※書紀(720)神代上(兼方本訓)「火の神軻遇突智を生まむとする時に、悶熱(あつかひ)懊悩(ナヤム)
[2] 〘他マ四〙
① あれこれ思案・工夫をめぐらして行なう。工面(くめん)する。
※浮世草子・好色五人女(1686)四「身をなやみおはしけるを、母人見かね給ひ、ぬきまいらせんと、その毛貫を取て暫なやみ給へども、老眼のさだかならず、見付る事かたくて」
② 取り扱う。あしらう。
※浮世草子・男色大鑑(1687)一「秤なやむ町人(まちにん)の悴子(せがれ)
[3] 〘他マ下二〙 ⇒なやめる(悩)
[語誌](1)(一)①のように肉体そのものを対象として用いた場合、「病む」は病気や怪我が原因であるのに対し、「悩む」は体の不調全般を意味し、特に、妊娠や出産による場合に用いられる。
(2)平安時代には(一)②のように精神的領域にも用いられるようになり、近世になると、(一)②の挙例「好色五人女」の「気をなやみ」のような句表現が現われ、近代以降、もっぱら精神的苦悩を表現するようになる。

なやまし・い【悩】

〘形口〙 なやまし 〘形シク〙 (動詞「なやむ」の形容詞化したもの)
① 悩みが多いさま。
(イ) 思いわずらう気持である。気持が苦しくつらい。難儀だ。
※書紀(720)顕宗二年八月(図書寮本訓)「吾が父の先王は是れ天皇の子たりと雖も、迍邅(ナヤマシキ)に遭遇ひて天位に登りたまはず」
(ロ) 困難な状況であるさま。「悩ましいわが家の家計」
※幻談(1938)〈幸田露伴〉「斯う暑くなっては皆さん方が或は高い山に行かれたり、或は涼しい海辺に行かれたりしまして、さうしてこの悩ましい日を充実した生活の一部分として送らうとなさるのも」
② 病気などのために気分が悪い。気分がすぐれない。
※宇津保(970‐999頃)忠こそ「なやましく侍て、内裏へも参らず」
③ 官能が刺激されて心が乱れる思いである。
※桐の花(1913)〈北原白秋〉昼の思「幽かな黄昏の思想を慕ひ恍惚の薄明を待つわかい男の心ほど悩ましいものはあるまい」
なやまし‐が・る
〘自ラ四〙
なやまし‐げ
〘形動〙
なやまし‐さ
〘名〙

なや・める【悩】

[1] 〘他マ下一〙 なや・む 〘他マ下二〙 =なやます(悩)
※玉塵抄(1563)二五「前々からをごって諸侯をないがしろになやめたぞ」
当世書生気質(1885‐86)〈坪内逍遙〉八「西施が心を患(ナヤ)める折も」
[2] 〘自マ下一〙 肉体的または精神的に苦しむ。なやむ。
※露芝(1921)〈久保田万太郎〉五「先刻から悩めてならなかった脳(あたま)が眩暈をさそった」

なやみ【悩】

〘名〙 (動詞「なやむ(悩)」の連用形の名詞化)
① 悩むこと。思いわずらうこと。
※妙一本仮名書き法華経(鎌倉中)一「かたく五欲に着して、痴愛のゆへに悩(なう)を生す(〈注〉ナヤミをなす)」
② やまい。病気。
※石山寺本大般涅槃経平安中期点(950頃)九「若し衆生の諸の毛孔に触するときは、能く一切の欝蒸のあつかはしき悩(ナヤミ)を除く」

なやま・す【悩】

〘他サ五(四)〙 悩むようにする。悩ませる。わずらわせる。苦しませる。困らせる。悩める。
※万葉(8C後)一九・四一七七「鳴き響(とよ)め 安寐(やすい)ねしめず 君を奈夜麻勢(ナヤマセ)
※朝寐(1906)〈森鴎外〉「全軍の安危の為めに頭を悩ましし会戦も」

なゆ・む【悩】

〘自マ四〙 「なやむ(悩)」の上代東国方言。→あなゆむ(足悩)

なやまし【悩】

〘形シク〙 ⇒なやましい(悩)

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