煩悩(読み)ぼんのう

精選版 日本国語大辞典 「煩悩」の意味・読み・例文・類語

ぼん‐のう ‥ナウ【煩悩】

〘名〙 (kleśa訳語苦悩心痛の意) 仏語。心を煩わし、身を悩ます心の働き。心身を悩ます一切の精神作用総称。貪(とん)・瞋(しん)・痴(ち)三つ三毒と称して、その最も根元的なものとする。その他根本煩悩、枝末煩悩、十煩悩など種々に説かれる。煩悩心。
菅家文草(900頃)四・懺悔会作「一切衆生煩悩身 求哀懺悔仰能仁」 〔勝鬘経‐一乗章〕

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

デジタル大辞泉 「煩悩」の意味・読み・例文・類語

ぼん‐のう〔‐ナウ〕【煩悩】

《〈梵〉kleśaの訳。苦悩・心痛の意》仏語。身心を悩まし苦しめ、煩わせ、けがす精神作用。とんしんは根元的な煩悩として三毒という。染。結。。「煩悩にさいなまれる」「煩悩解脱する」
[類語]欲望欲求欲情欲念欲心欲気よくけ欲得利欲私欲我欲執着意欲色気野心野望向上心娑婆気

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

日本大百科全書(ニッポニカ) 「煩悩」の意味・わかりやすい解説

煩悩
ぼんのう

仏教で説く、衆生(しゅじょう)の身心を煩わし悩ます精神作用の総称。クレーシャkleśaというサンスクリット語が中国で「煩悩」「惑」と翻訳されたのであるが、この語は「汚(けが)す」という意味合いももっており、そのために「染(ぜん)」「染汚(ぜんま)」などとも訳された。またこのことばは元来、不善・不浄(ふじょう)の精神状態を表す数多くの仏教術語のうちの一つであったが、やがてそれらの心理作用や精神状態を総称し、代表することばとして使われるようになった。このような広い意味での煩悩には、もっとも基本的なものとして、「三毒」「三垢(さんく)」「三不善根」などといわれる貪(とん)(執着)・瞋(じん)(憎悪)・痴(ち)(無知)がある。これに慢(まん)(慢心)・疑〔(ぎ)、仏教の教えに対する疑い〕・見〔(けん)、誤った見解〕を加えて六煩悩といい、根本的な煩悩とされる。このほか、潜在的な煩悩である随眠(ずいめん)、現に作用している煩悩である纏(てん)、あるいは結(けつ)・縛(ばく)・漏(ろ)など、人間の不善の心理状態を詳細に分析して、きわめて多種多様の煩悩が説かれ、「百八の煩悩」「八万四千の煩悩」などといわれた。これらの煩悩を滅ぼし尽くすことによって解脱(げだつ)することができるのであり、したがって煩悩はあくまで断じられるべき対象として説かれたのである。しかし後世大乗仏教のなかには、煩悩と悟(さと)りの本質はなんら異なるものではないという、「煩悩即菩提(ぼだい)」を主張するものも現れるに至った。このように煩悩の問題は、悟りの境地と深くかかわるため、重要なテーマとして仏教においてさまざまな形で論じられている。

[池田練太郎]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「煩悩」の意味・わかりやすい解説

煩悩【ぼんのう】

仏教で,心身を悩まし,乱し,煩わせ,惑わし,汚す心の作用をいう。人間の苦の原因とされる。煩悩の根源は貪(とん)・瞋(しん)・痴(三惑)で,それに慢・疑・悪見の三つを加え,根本煩悩ともいう。
→関連項目解脱無漏羅漢惑業苦

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

世界大百科事典 第2版 「煩悩」の意味・わかりやすい解説

ぼんのう【煩悩】

原語のサンスクリット〈クレーシャkleśa〉は〈苦しめる〉〈汚す〉という動詞kliśの名詞形であり,〈汚れた心〉〈苦しむ心〉というのが煩悩の原意である。総じて,われわれを悩まし害し誤謬に導く不善の心を煩悩と呼ぶ。仏教の経論にはさまざまの種類の煩悩があげられているが,代表的なものとしては,次のような分類がある。(1)貪(とん),瞋(じん),痴(ち)の3種。(2)貪,瞋,痴,慢,疑,悪見の6種の根本煩悩と,忿(ふん),恨,覆,悩,嫉(しつ),慳(けん),誑(おう),諂(てん),憍(きよう),害,無慚(むざん),無愧(むき),惛沈(こんじん),掉挙(じようこ),不信,懈怠(けだい),放逸,失念,散乱,不正知(ふしようち)の20種の随煩悩。

出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「煩悩」の意味・わかりやすい解説

煩悩
ぼんのう
klésa

仏教用語。惑 (わく) ,随眠 (ずいみん) ともいう。悟りの境地を妨げる一切の精神作用をさし,根本煩悩と枝末煩悩との2種に分類される。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

普及版 字通 「煩悩」の読み・字形・画数・意味

【煩悩】ぼんのう

心の迷い。

字通「煩」の項目を見る

出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報

世界大百科事典内の煩悩の言及

【説一切有部】より

…これは現代では心理的影響と考えられるが,有部はこれを物質とみたところに特徴がある。 有部は人間の苦の直接の原因を,誤った行為(業)とみ,その究極の原因を煩悩(惑)と考えた。すなわち人間の存在を惑→業→苦の連鎖とみる(これを業感縁起という)。…

※「煩悩」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報

今日のキーワード

少子化問題

少子化とは、出生率の低下に伴って、将来の人口が長期的に減少する現象をさす。日本の出生率は、第二次世界大戦後、継続的に低下し、すでに先進国のうちでも低い水準となっている。出生率の低下は、直接には人々の意...

少子化問題の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android