内科学 第10版 「感覚障害のみかた」の解説
感覚障害のみかた(神経疾患患者のみかた)
感覚系は表在感覚,深部感覚,複合感覚に分けられる.表在感覚は触覚,痛覚,温度覚からなり,深部感覚は関節位置覚・運動覚と振動覚からなる.臨床的には位置覚と運動覚を分離することは困難であり,両者の総合的評価を位置覚と解釈している.振動覚は深部感覚の検査法として用いられるが,その中枢伝導経路は脊髄小脳路を経由するとする説もあり,必ずしも後索-内側毛帯系の機能を反映するものではない可能性もある.複合感覚は感覚情報が体性感覚野で統合されて生じる二点識別覚,立体覚,重量覚,皮膚書字覚などの感覚を指す.複合感覚の評価では,頭頂連合野までの体性感覚は正常に伝わっていることが前提である.左右同時に軽い触覚刺激を加えた場合に,一側の刺激が認知されない消去現象は,皮質性感覚障害の症候として重要である.
表在感覚の障害には,自発的な異常感覚と錯感覚,および感覚の低下ないし過敏がある.異常感覚は自発的に生じる異常な自覚的感覚を指し,錯感覚は外界から与えられた刺激とは異なって発生する感覚を指す.前者はdysesthesia,後者はparesthesiaに対応することが多いが,反論もあるため,神経学用語集ではいずれかに対応させることはしないと決められた.したがって,誤解のないように,日本語ではdysesthesia,paresthesiaの使用を差し控え,異常感覚,錯感覚と表記するのがよい.臨床の訴えとして多い「しびれ」は,その内容が曖昧で,ときには運動麻痺まで含まれているため,問診でその内容をよく確かめる必要がある.自発的な異常感覚の場合は「しびれ感」と表記する.
表在感覚の程度の変化には,感覚低下あるいは感覚鈍麻と感覚過敏がある.正常の部分の感覚を10としたときの割合として,5/10,12/10などと記載するとよい.触覚検査には毛筆やティッシュペーパーを用いる.検者の指でごく軽く触れてもよい.痛覚検査にはこれまで用いられてきた安全ピンやルーレットに代わって,ディスポの爪楊枝を用いるように推奨されている.
感覚障害を評価するポイントは,その分布と感覚の種類(modality)である.分布は左右の差,近位遠位の差から確認し,次に末梢神経の支配域に一致するか,脊髄髄節のパターンに一致するかを評価する.感覚の検査は疲労しやすいので,日を改めてみても確実な変化のある場合を所見とする.
表在感覚障害の分布には,末梢神経障害,神経根性障害,脊髄性障害がある.末梢神経障害はさらに,単一神経の分布に一致した単ニューロパチー(mononeuropathy),単ニューロパチーが多発した状態である多発性単ニューロパチー(multiple mononeuropathy),左右対称性で遠位部優位に手袋靴下型の分布を示す多発ニューロパチー(polyneuropathy)に分けられる.神経根性の場合には,分布はデルマトームに一致している.脊髄障害では,感覚障害にレベルがあることが特徴である.[西澤正豊]
■文献
水澤英洋,宇川義一編著:神経診察:実際とその意義,中外医学社,東京,2011.水野義邦編:神経内科ハンドブック 鑑別診断と治療 第4版,医学書院,東京,2010.
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報