慢性腹膜炎

内科学 第10版 「慢性腹膜炎」の解説

慢性腹膜炎(腹膜炎)

(2)慢性腹膜炎(chronic peritonitis)
a.結核性腹膜炎(tuberculous peritonitis)
概念
 腹膜は肺外結核巣の中でまれな臓器であり,肺の陳旧性結核巣から再活性化した結核菌が血行性に散布されて起こることが多い.肝硬変,腹膜透析,糖尿病,悪性腫瘍,ステロイド治療中,AIDSなどを基礎疾患としてもつ患者に多い.
臨床症状
 無症状から腹水腹痛発熱などさまざまで,結核性に特徴的な症状はない.本疾患の90%以上の患者で腹水を認め(湿性型),腹部は全体的に軟であるが,残り数%は腹膜が線維性に癒着をきたし腹水を認めない(乾性型)重症例であり腹部は板状硬となる.正球性正色素性貧血がみられることが多い.女性では女性生殖器に進展し骨盤腫瘤,不妊,不正性器出血の原因となる.
診断
 特徴的な症状に乏しいため診断確定まで時間がかかることが多く,腹水をもつ患者に対して本疾患を念頭において診察する必要がある.確定診断を得るためには腹水からの結核菌の培養または腹膜生検が必要である.盲目的腹膜生検は病変が採取されている可能性が低く,合併症の危険性も高いため腹腔鏡などを用いた直視下の生検が有用である.腹腔鏡は特徴的な白色小結節がみられるうえ,狙撃生検も可能で有用性が高い.腹水のリンパ球優位の細胞数の増加,総蛋白>3 g/dL,血清-腹水アルブミン濃度差<1.1の所見がみられる場合は結核性を疑う.CTなどの画像検査では腹水,腹膜の多発結節,内部壊死を伴うリンパ節腫脹などが認められる(図8-10-1).また腹水中のアデノシンデアミナーゼ値(ADA)が40 IU/L以上の場合は結核として感度,特異度ともに高い.またPCR(ポリメラーゼ連鎖反応),enzyme-linked immunospot assay(ELISPOT)による診断法も行われる.
治療
 肺結核の治療法に沿って治療を行う.はじめの2,3カ月のステロイド投与で腸閉塞などの合併症を防げるという報告もあるが,感染を悪化させる可能性があるため評価は定まっていない.
予後
 湿性型では抗結核薬によく反応するので比較的予後は良好であるが,高齢,治療開始の遅れ,肝硬変併存で致死率が高くなる.
b.硬化性被囊性腹膜炎(sclerosing encapsulating per­itonitis:SEP)
概念
 長期の腹膜透析患者において,腹膜の線維化と腸管の被囊化が進行した状態であり,慢性的な腸閉塞症状とともに腹膜による限外濾過の低下,水分の貯留による浮腫が引き起こされる.詳細な原因は不明だが,細菌性腹膜炎,酢酸バッファーを用いた腹膜透析,カテーテルなどの異物に対する反応,そして長期にわたる腹膜透析歴などがかかわっていると考えられている.
臨床症状
 腸管の動きが制限され,腹痛,悪心,食欲不振,便秘,下痢,腹部腫瘤,腹水,体重減少,嘔吐,易疲労感などの症状が徐々に進行する.特徴的なのは腹膜透析における溶質と水分のクリアランスの低下である.
診断
 確定診断には腹腔鏡や開腹による腹膜の確認や生検が必要だがリスクも伴うため,通常は臨床症状とCT,腹部エコー,PETなどの画像所見を合わせて診断する.画像では腹膜の石灰化,腸管壁の肥厚,腸管腔の拡張などが特徴だが,これらの所見が認められない場合も本疾患を否定はできない.腹膜透析に伴う腹膜炎には本疾患以外にも細菌性腹膜炎,好酸球性腹膜炎などがあり鑑別が必要である.また,本症の経過中に細菌性腹膜炎を併発したりすると本症が一気に進行する.
治療
 血液透析への変更,経静脈栄養を用いた腸管の安静,ステロイドなどの免疫抑制薬の投与が行われる.手術による癒着剥離も行われる .
c.好酸球性腹膜炎(eosinophilic peritonitis)
 腹膜透析導入早期に認められる腹膜炎.細菌は認めず腹水内の好酸球が増加する.原因は不明だが腹膜透析過程でのアレルギー反応と考えられている.治療にはステロイドが使われる.細菌性腹膜炎との鑑別が重要.
 本症のほかに好酸球性胃腸炎の漿膜優位型も,広義の腹膜炎の一種と考えられる.急性ないし慢性の腹膜炎で,アレルギー性の機序が考えられ,末梢血や腹水中の好酸球が増加する.続発性腹膜炎と間違われて開腹となることもある.ステロイドが有効.
d.血管炎に伴う腹膜炎
 アレルギー性肉芽腫性血管炎(Churg-Strauss症候群),悪性萎縮性丘疹症(Degos病),結節性多発動脈炎,全身性エリテマトーデス(SLE)などの疾患も腹膜炎を引き起こす.
e.家族性地中海熱1型に伴う腹膜炎
 反復・発作性に腹膜,胸膜,滑膜の炎症を繰り返す常染色体劣性の遺伝性疾患.MEFV遺伝子の異常が関与し,診断にも使われる.地中海を囲む民族の家系に多発する.原因遺伝子の特定が進み,炎症の機序も研究が進んでいる.アミロイドーシスが合併すると腎不全へと進行し,予後不良である.治療にはコルヒチンなどが使われる.[藤沢聡郎・松橋信行]
■文献
Debrock G, Vanhentenrijk V, et al: A phase II trial with rosiglitazone in liposarcoma patients. Br J Cancer, 89: 1409-1412, 2003.
Saab S, Hernandez JC, et al: Oral antibiotic prophylaxis reduces spontaneous bacterial peritonitis occurrence and improves short-term survival in cirrhosis: a meta-analysis. Am J Gastroenterol, 104: 993, 2009.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

六訂版 家庭医学大全科 「慢性腹膜炎」の解説

慢性腹膜炎
まんせいふくまくえん
Chronic peritonitis
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 慢性腹膜炎は慢性の経過をたどる腹膜炎で、そのほとんどが結核(けっかくせい)腹膜炎です。

原因は何か

 結核性腹膜炎は、結核菌の腹膜への感染で発病します。めざましい化学療法の進歩により激減はしたものの、近年、増加傾向の兆しがあり注意を要します。

 腹膜が最初の発症部位であることはまれで、多くは肺結核結核性胸膜炎(きょうまくえん)などから血流あるいはリンパ管を介して伝染して発病することがほとんどです。

症状の現れ方

 結核性腹膜炎では、全身症状として微熱、食欲不振、全身の倦怠感(けんたいかん)がみられます。

 腹部症状としては腹部膨満感(ぼうまんかん)、腹痛、腹水が現れます。腹痛は軽度のものが長期に続き、圧痛は腹部全体にあります。腹水は、病初期からしばしば現れます。

検査と診断

 結核性腹膜炎は、先に述べた微熱、腹部膨満感などの臨床症状が長期に続く時に強く疑われます。また、既往歴として、肺結核結核性胸膜炎がある時には本症の可能性が高くなるため、注意を要します。

 実際には結核菌の検出は難しく、診断に難渋することがありますが、腹水が続く場合には腹水穿刺(せんし)(針を刺して吸引する)で結核菌が証明されれば確定診断となります。

治療の方法

 結核性腹膜炎では抗結核薬を中心に治療を開始します。予後は一般的に良好ですが、鑑別診断に苦慮する場合には治療の時期が遅れ、腸閉塞(ちょうへいそく)を起こして予後不良になることがあります。

病気に気づいたらどうする

 肺結核、結核性胸膜炎の既往歴があり、発熱、食欲不振、全身の倦怠感などの症状が続く場合には、専門医への受診をすすめます。

棟方 昭博

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

家庭医学館 「慢性腹膜炎」の解説

まんせいふくまくえん【慢性腹膜炎 Chronic Peritonitis】

[どんな病気か]
 炎症が長期間にわたって続く腹膜炎です。急性腹膜炎(「急性腹膜炎」)が治りきらずに慢性化することもありますが、このケースはまれで、慢性腹膜炎のほとんどは、最初から慢性のかたちで発症します。
 もっとも多いのは結核性腹膜炎(けっかくせいふくまくえん)で、肺結核の原因となっている結核菌が、血液やリンパ液の流れにのって腹膜まで到達し、徐々に発病することが多いものです。
 そのほかに、腹部に針を刺して腹水(ふくすい)を抜く治療(穿刺(せんし))をたびたび行なうと、腹膜どうしがくっつき(癒着性腹膜炎(ゆちゃくせいふくまくえん))、さらにこぶのような腫(は)れ物ができることもあります(術後性肉芽腫様腹膜炎(じゅつごせいにくげしゅようふくまくえん))。心膜炎(しんまくえん)、リウマチ熱などの際に滲出液(しんしゅつえき)が腹腔(ふくくう)にたまって滲出性腹膜炎(しんしゅつせいふくまくえん)がおこることもあります。
[治療]
 いずれも、原因となっている治療と平行して、腹膜炎の治療(「急性腹膜炎」の治療)を行ないます。

出典 小学館家庭医学館について 情報

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