改訂新版 世界大百科事典 「戦場にかける橋」の意味・わかりやすい解説
戦場にかける橋 (せんじょうにかけるはし)
The Bridge on the River Kwai
アメリカの資本と監督デビッド・リーン,主演アレク・ギネスをはじめとするイギリス人のスタッフによってイギリスでつくられたアメリカ映画。1957年製作。〈ハリウッドは消滅した〉といわれ,独立プロデューサーの時代ともいわれた1950年代には,一定の期間アメリカ以外の土地で暮らしたものは所得税が免除されるという事情もあって,製作費の安いイタリア,スペイン,イギリスなど国外でつくる〈ランナウェーrunaway〉とよばれるアメリカ映画が盛んにつくられた。これはその代表的な作品の1本である。ハリウッドの〈赤狩り〉でイギリスに亡命していたプロデューサーのカール・フォアマン(1914-84)が,〈戦争の狂気〉を描いたフランスのピエール・ブールの小説に目をつけて映画化のオプション(選択権)を得た。それを引き継いだサム・スピーゲルが《波止場》(1954)の製作で実績を残したコロムビア映画にもちこんで映画化したといわれているが,実はその前にアレクサンダー・コルダが弟のゾルタン・コルダに監督させるつもりで映画化権を手にいれたものの,小説の中に描かれているイギリスの大佐が狂人か反逆者のように描かれているという理由で企画を捨て,映画化権をスピーゲルに譲渡したという説もある。第2次世界大戦中タイとビルマ(現,ミャンマー)を結ぶ鉄道敷設とクワイ河に架かる鉄橋の爆破をめぐるイギリス,アメリカ,日本の3ヵ国の軍人気質の葛藤(かつとう)とそれぞれの死にざまを描いて〈戦争のむなしさ〉を訴えた映画で,戦争映画としては1930年の《西部戦線異状なし》以来のアカデミー作品賞,監督賞をはじめ七つのオスカーを受賞した。ピエール・ブールにオスカーがあたえられた脚本は,実は,ハリウッドのブラックリストに載せられたカール・フォアマンがマイケル・ウィルソンとコールダー・ウィリンガムと共同で書いたもの。主題曲《クワイ河マーチ》(マーカム・アーノルド作曲)もオスカーを受賞した。
なお,アメリカでは66年に200万ドルという破格の放映料でテレビに売られ,当時,映画館の観客は1週間で3000万人から4000万人といわれていたのに対して,視聴者は1晩で推定6000万人に達したと伝えられ,大作の放映権を売って映画がテレビとの共存共栄関係を強化する傾向に力をかしたことでも特筆される。
執筆者:柏倉 昌美
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報