戦時インフレーション(読み)せんじインフレーション

改訂新版 世界大百科事典 「戦時インフレーション」の意味・わかりやすい解説

戦時インフレーション (せんじインフレーション)

戦争にともなって国内経済で起こるインフレーション。国家が総力をあげて戦争を遂行する際には,インフレーションが発生するための好条件がそろうことになる。第1に,戦費は経常的な税収に比して巨額であり,大部分赤字国債赤字公債)の増発により調達される。この結果,一方では総需要が無制限に拡大してインフレ・ギャップを生む可能性が強い。他方国債の増発は,戦時下における金融統制を通じて,通貨の増発を招くことになり,インフレの持続の原因となる。第2に,生産面では軍需が優先され,民間消費財は品不足になりがちとなる。名目所得は高まっているから,こうした財の価格騰貴は避けられないことになる。

 こうした理由から,実際には戦争開始とともに全面的あるいは部分的な物価統制が実施されることがまれではない。物価凍結,あるいは統制されると,消費は配給によって行われることになり,家計は所得があっても消費財が存在しないために,国債等を購入して貯蓄せざるをえなくなる。価格統制配給制度によって表面的にインフレーションを抑制している状況を〈抑制されたインフレーション(抑圧型インフレーション)repressed inflation〉という。戦争がいったん終了して価格統制等が解除されると,戦時中に蓄積された購買力は顕在化し,激しいインフレーションの原因となる。たとえば第1次大戦を例にとると,戦争終了時の物価水準各国とも戦前の2~4倍であったが,その後敗戦国のドイツ・マルクは1兆倍強,戦勝国のロシア・ルーブルは500億倍という平価切下げを経験した。第2次大戦時の日本においても,1934-36年の平均に比べて,消費者物価は44年には約4倍の水準に過ぎなかったが,戦後の46年には50倍,49年には240倍近くに上昇している。なお戦時でなくとも,軍事支出によってインフレ状態を示すときは,広く軍需インフレーションという。
インフレーション
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

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