戯曲音楽(読み)ぎきょくおんがく(英語表記)Xì qǔ yīn yuè

改訂新版 世界大百科事典 「戯曲音楽」の意味・わかりやすい解説

戯曲音楽 (ぎきょくおんがく)
Xì qǔ yīn yuè

中国音楽の五大ジャンル(民歌および古代歌曲,歌舞および舞踏音楽,説唱音楽,戯曲音楽,民族器楽)の一つ。中国の戯曲とは文学,美術,音楽,舞踊,演劇が一体となった総合芸術で,現在中国各地では400種以上の劇種が行われている。それらの劇種は通常その使用する腔調こうちよう)(曲調)の系統上から(1)崑腔系,(2)高腔系,(3)梆子(ほうし)腔系,(4)皮黄(ひこう)腔系,(5)その他,の5系統にまとめられる。崑腔を用いた代表的な戯曲は崑曲で,明代に大成され今日でも行われている。崑腔は直接あるいは間接に多くの劇種に影響を与え,その演目と音楽は各地の地方戯曲中で,本来の姿のままか,あるいは改変を受けた形で生きている。京劇をはじめ川劇(せんげき),湘劇,滇劇(てんげき),粤劇(えつげき),桂劇,漢劇などは崑腔を部分的に採用している。高腔は,管弦楽伴奏を用いず,打楽器のみで伴奏され,舞台上の1人が独唱し,舞台裏で数人がこれに唱和するという演唱形式をとるのが特徴で,川劇,湘劇,婺劇(ぶげき),贛劇(かんげき)などの各劇種が高腔を用いている。梆子腔という名称は,ナツメの木で作った拍子木を打って拍子をとりながら歌うことからつけられたもので,それを主要曲調とする劇種には,山西梆子,河北梆子,陝西梆子等のように北方の戯曲が多い。皮黄腔とは,二黄腔と西皮腔という二つの曲調を合わせた言い方であり,それを主要曲調とする劇種の代表は京劇である。その他漢劇,徽劇(きげき),湘劇,桂劇,粤劇など多くの劇種が皮黄腔を用いている。

 中国戯曲音楽はその唱腔(歌唱)の構成原理から,(1)聯曲体,(2)板腔体,(3)総合体に大別される。聯曲体とは劇全体が多くの独立性をもった楽曲(曲牌(きよくはい)という)の組合せによって構成されるもので,板腔体とは,ある曲調を基礎としてこれに速度,リズム,旋律上の変化を加えることにより系列の異なるさまざまな拍子(板眼または板式と称する)を作り上げ,それらをつなぎ合わせて構成する方法である。総合体とは,前記の二つの優れた点をとり入れた方法である。戯曲音楽は,一般に唱腔の部分と伴奏音楽の部分から成り立っている。唱腔はこれを歌う人物の役柄生旦浄丑(せいたんじようちゆう))により決められた型があり,同一の役柄の歌唱でも流れによってさらに細かな変化のくふうが見られる。伴奏音楽は文場,武場と呼ばれる楽隊により行われる。文場とは,管弦楽器類をさし,武場とは各種打楽器と哨吶(さない)(スルナイ)により組織されている。文場の楽器の中心となるものは,それぞれ劇種により異なり,皮黄腔の各劇種では京胡,梆子腔各劇では板胡であり,崑腔では笛子,越劇,錫劇(しやくげき)では二胡と琵琶,粤劇では粤胡等となっている。武場の楽器は,梆子腔各劇では梆子,京劇では京鑼,粤劇では大鑼,川劇では大鈸,馬鑼などがその中心となっている。文・武場の各楽器は歌唱と同様に,音域や音色の点でその地方の音楽の特色を十分に表現している。
地方劇
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