経を受持(じゆじ)することを持経というが,持経者とは,むしろ経を読誦(どくじゆ)する者をいう。読誦する経のほとんどが《法華経》であるから,持経者という場合,《法華経》を受持読誦する僧を指した。持経者はときに聖(ひじり)ともいわれるように,おおよそ平安時代中期以降に社会的概念にまでなった聖のなかで,とりわけ《法華経》を読誦する聖が持経者とよばれた。《大日本法華経験記》はこうした持経者の略伝と法華経霊験譚を集めている。持経者のなかには,所属寺院を離れ山林に入り持経生活を行った者,聖の集団生活の場である別所に入った者,各地を遊行(ゆぎよう)して人びとに法華信仰を勧めた者や勧進(かんじん)を行った者などがいる。持経者のなかには,多数の《法華経》を読誦したり,読誦に専念する法華専修の持経者もいたが,その宗教生活の意義を理論化したり,持経者を組織化する者はあらわれなかった。鎌倉時代の日蓮は,持経者の系譜につらなるとともに,法華信仰の理論化を達成した。
→聖
執筆者:高木 豊
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…平安時代の文学にも《法華経》の思想は大きな影響を与え,法華経和歌や説話を生んだ。古代末期には持経者(じきようしや)と呼ばれる《法華経》の修行者が活動し,《法華経》の信仰は庶民の間にも広く浸透した。このような法華経信仰の広がりを背景に,鎌倉時代に日蓮が現れて《法華経》の純粋な信仰を主張し,題目を唱えることをすすめた。…
※「持経者」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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