改訂新版 世界大百科事典 「捜索者」の意味・わかりやすい解説
捜索者 (そうさくしゃ)
The Searchers
1956年製作のジョン・フォード監督の西部劇。《荒野の決闘》(1946)から《シャイアン》(1964)に至るフォードの戦後の西部劇の頂点とみなされ,フォード自身のことばによれば〈家族の一員になることができなかった1人の孤独な男の悲劇〉を描いた詩情あふれるフォード西部劇の集大成でもあり,また,人種偏見と憎しみに生きる孤独な男の心のなかに突如愛とヒューマニズムがよみがえる瞬間をみごとに感動的に演じてジョン・ウェインの最高作ともみなされる作品である。《西部劇--夢の伝説》(1973)の著者F.フレンチは,戦後の西部劇をアメリカの政治との関連において〈ケネディ西部劇〉と〈ゴールドウォーター西部劇〉に大別し,1950年以降のフォード西部劇は後者に属し,なかでもその典型が《捜索者》であるとしている。すなわち,〈ゴールドウォーター西部劇〉の内容は,〈ヒーローが自己の美徳と自分自身のイメージに関しては断固として迷うことがなく,変わることもない。個人主義,自立,差別の必然性などが強調される。攻撃は人間の自然な様相であり,暴力は不可避のもの,かならずや期待されるもの,そしてときには享楽されるべきものとみなされる。他国者や少数派には疑い深く,いくぶん保護者的な態度が示される。過去は,行動の理想を見いだすために,また社会がいかに組織されるべきかを発見するために,振り返られるべきものだという感じが全体的に流れている。昔にかえり,過ぎ去った黄金時代を再現する可能性をもたぬいっさいの変化には反対だとする用心深いペシミズムが基調として強められている〉。しかしJ.L.ゴダールは,ゴールドウォーターを支持するジョン・ウェインを憎悪しながらも,この映画でインディアンにさらわれて育てられた娘(ナタリー・ウッド)を殺すつもりで追いつめたウェインが,突然彼女を抱き上げて〈家に帰ろう〉とやさしく呼びかけるシーンでは涙せずにいられなかったと書き,その〈映画的〉感動の秘密をいい当てている。
執筆者:広岡 勉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報