翻訳|grafting
果樹、植木(花木)、野菜などの園芸植物の優良品種または個体の増殖に用いる繁殖技法の一種。挿木(さしき)、株分けと同様、栄養繁殖(無性繁殖)にあたる。方法は、植物の栄養体の一部である枝や芽を、他の植物体に接ぎ合わせて新しい個体を育成するもので、この方法だと開花や結実を早くすることができることから、一名嫁接(よめつぎ)ともよばれる。根をもっていて接木されるほうを台木といい、台木に接木するほうを接穂(つぎほ)または穂木(ほぎ)という。
紀元前1000年ころ中国で行われ、日本へは仏教伝来のころ、その技術が伝えられたという説もあるが、明確な根拠はない。江戸時代の佐藤信淵(のぶひろ)著『草木六部耕種法』(1832)に、いろいろな接木の方法が記載されている。また1871年、フランスのガストン・バジイユGaston Bajilleが、ブドウの根に寄生するフィロキセラ虫の抵抗性台木を発見し、接木により回避したことはよく知られている。
[堀 保男]
接木は植物のもつ癒合能力を利用したものである。穂木と台木の形成層を密着させると、そこからカルス細胞ができ、新しい細胞の一部はさらに分化して穂木と台木の形成層が連絡し、両者の間に養水分の流動がおこり、新しい個体の癒合、生育が始まる(これを活着という)。穂木と台木が完全に活着し、成長、開花結実作用が順調に行われることを「接木に親和性がある」という。穂木と台木の親和性はその組合せによっていろいろな程度があるが、一般に同属か近縁のものほど親和性がよいといわれる(穂と台とが同一種である場合の台木を共台(ともだい)という)。しかし、異種間のほうが親和性がよい例もあり、温州(うんしゅう)ミカンは同種のダイダイより異種のカラタチのほうが親和性がよいこともある。
[堀 保男]
園芸植物の多くは雑種性であるため、種子を播(ま)いても親と同じものがつくれるとは限らない。樹木のように開花結実が遅く年月を要すると、経営的な安定が得られないことが多い。そこで、果樹や植木では、従来の品種から新しい品種に更新したり、幹の部分に枝が欲しいときに接木の方法を用いる。また野菜類のなかには連作障害や土壌病害虫に弱い品種があるため、抵抗性のあるものを台木として使用し、生育促進や生産の安定を図っている(トマト、キュウリ、スイカなど)。
接木の利点としては、(1)同一品種(個体)の増殖が容易である、(2)開花結実が促進され収穫期が早まる、(3)品種の更新、欠除枝条の補充がしやすい、(4)樹勢の回復が可能である(根接の場合)、(5)病害虫、土壌の乾湿に強い台木の利用ができる、(6)台木の用い方により矮化(わいか)栽培が可能となる、などの点があげられよう。
欠点は、(1)台木の別途育成を必要とする、(2)接木作業が複雑で熟練を必要とする、(3)種類によっては養生期間が必要である、(4)台木と穂木の親和性、病気(ウイルス病)のない台木であることなどを知らないとうまくいかない、などである。
[堀 保男]
〔1〕接木する台木の部位による分類。(1)幹(胴)接、枝接 普通、地上10センチメートル内外のところで切断した台木に、1~3芽くらいつけた穂木を接ぐ。台木と穂木のあわせ方によって、切り接、割り接などに分けられる。枝の高い位置で接ぐことを高接という。
また、春に伸びた新梢(しんしょう)部分を台木として、その新梢に5~6月ごろに接木するものを緑枝接という。(2)根接 変化した根を掘り出し、その根に接木して曲幹美を楽しむ(主として盆栽に用いる)。また、老木や根の老化したものの樹勢の回復に、細根のしっかりした太根を台根として主幹に根を接ぐものである。いずれも特殊な場合が多い(ボタン苗の場合はシャクヤク根にボタンを接木する)。(3)実生(みしょう)接 大きな種子で発根したものを台木として用いる。野菜類(主としてウリ類)では子葉から本葉が出かかったころに台木として利用する。樹木の場合は一般的ではない。(4)呼び接(寄せ接) 穂木を母体の植物から切り離さないで、台木と穂木両方の枝の一部(片側だけ)を削り、その部分の形成層を密着させて癒合させる方法。モミジなどで行われている。(5)芽接 台木の樹皮を一部はがした部分に、充実した穂木となる一芽に少量の木部をつけたものを削り取って接着させる方法(楯(たて)芽接、そぎ芽接ともいう)。〔2〕接木する場所による区分。(1)居接 台木を掘り上げずに、植え付けた場で接木作業をする。主として多量の果樹苗木、大木、品種更新の場合に用いる。(2)揚げ接 台木を一度掘り上げ、接ぎやすい状態にしてから接木する。一般に小苗木、集団管理するものに多く用いる。
[堀 保男]
落葉樹は主として春の発芽前、芽が動き始めた3~4月に行い、常緑樹は芽が伸びだした5~6月に行う。しかし芽接のように8~9月に芽が充実してから行うものもある。なお、常緑樹でも温室などの施設が完備したところでは2~3月にかけて接木ができる。
[堀 保男]
(1)台木 肥培管理されたもので形成層がしっかりし、細根が多いものであること。また、穂木との親和性が高くないと活着が悪い。なお、台木がウイルス病などにかかっていると、優良種を接木しても感染するので、台木は無病であることがたいせつである。(2)穂木(接穂) 落葉樹のように春に接木するものは、1~2月の休眠中に採穂し、冷蔵庫または土中に貯蔵しておくとよい(リンゴ、カキ、モモ)。しかし、ウメ、フジなど接木時に採穂したほうが活着しやすいものもあり、樹種により異なる。常緑樹では貯蔵するよりも接木直前に採穂したほうがよいものが多い。(3)接木の方法 接木の仕方により差はあるが、一般的な切り接、割り接を例にとると、低接でも高接でも、まず台木を接ぐ位置で切断し、接木できる状態にする。ついで穂木の調整にかかる。穂木はできるだけ頂部と基部は除いて5センチメートル内外に2~4芽ついたものを、片側2~3センチメートルを木部が4分の1程度出るまで平らに削る。さらに反対側を角度をつけて切り返しておく。その穂を乾かさない状態に保ちながら台木を2~3センチメートル切り割る。そのとき木質部もつけておく。その切り割った中に、先に調整しておいた穂を形成層をあわせるようにして差し込み密着させ、動かないように固定する。接木用ビニルテープ、ブラックテープ、ガムテープで結束し、水分が逃げないように接ろう、パラフィンなどで切り口をふさぐ。活着して芽が伸びたら、折れないように誘引することも必要である。結束したテープ類は幹の肥大とともに食い込むので、秋または翌春に除去する。
芽接の場合には、8~9月の生育が中断し成熟期に入ったころに行う。幹または枝にT字形に切り目を入れ、樹皮をすこしはいで、採取した穂木から一芽だけそぎ取り、木部をすこしつけて楯形にしたものを、切り口に差し込み結束する。芽接の穂は葉がしっかりしているので、葉柄の部分だけ残して葉は切り取ってやる。活着は15日内外で判明する。葉柄が黄変し脱落すれば活着し、枯れた状態で付着していれば未活着なので、もう一度異なった場所に芽接するとよい。野菜類の接木では、スイカ(ユウガオ台)、キュウリ(カボチャ台)、トマト(トマト共台)、ナス(トルバム・ビガー台)などで利用されているが、ウリ類では呼び接が容易なため、台木とするほうを2~3日早く播種(はしゅ)し、本葉が出かかった双葉のときに、穂木のほうも双葉をつけたまま割り接する。接いだものは小さなクリップで押さえておくだけでよいが、とくにビニルなどで囲って高温多湿の状態に保つことが活着率を高める。特殊な例としては、メロンのように、目的とする位置に結実しない場合、上部に結実した枝を目的の枝に接木することもある。接木育成した木の管理でとくに注意すべき点として、根元または幹から徒長枝が出て株状になることがある。この枝を台芽とよび、早期に除去しないと接木したほうの木の成長が衰える。
[堀 保男]
植物体の一部分(枝,芽,根)を他の個体に接着させ,両者を癒合させる技術。接木植物の台となる部分を台木といい,台木に接着させる部分を接穂または穂木という。接木によって,母植物と同一の形質をもつ個体を比較的容易に多数増殖できる。また,接木植物は種子から育てた植物(実生)に比べて開花や結実が早くなる。果樹や花木は遺伝的に雑ぱくであり,種子をまいても元の植物とは異なった果実や花をつける場合が多いので,栄養繁殖,とくに接木繁殖することが多い。また,台木をうまく選択することによって,樹の大きさを調節したり,病虫害に対する抵抗性を強めたりすることができる。たとえば,ヨーロッパブドウはフィロキセラという害虫が根に寄生すると樹勢が衰え,ついには枯死してしまうが,アメリカブドウの野生種はフィロキセラにおかされにくいので,現在ではこれを改良した台木に接木をするのが一般的になっている。また,リンゴなどでは樹高を低くして果実を収穫しやすくするとともに,結実までの期間を短縮するために,枝の生長を抑え,地上部を小型化する台木(矮性(わいせい)台)を利用することが多くなった。経済性を失った品種を新品種に変えるために,すでに成木になっている旧品種の太枝に新品種を接木することもある。これは〈高接〉と呼ばれ,この場合の旧品種は中間台木と呼ばれる。
台木と接穂の形成層が切断面でぴったり接着すると,形成層近くの柔細胞が分裂を開始して互いに癒着し,やがてその一部から新しい通導組織が分化して台木から接穂へと養水分が供給され,接穂が生育を開始する(これを活着という)。形成層がさかんに活動するのは4~5月と9~10月なので,この時期あるいはその少し前に接木をすると,形成層近くの柔細胞の分裂もさかんで,癒合組織の形成が早く活着しやすい。
台木と接穂の組合せが適当だと,活着した接木植物は長年にわたって支障なく開花,結実を続ける(この場合,台木と接穂との間に親和性があるという)。これに対して,不親和の組合せでは活着しないか,活着しても,やがて樹勢が衰えて枯死してしまう。親和,不親和の程度にも種々の段階があり,一般に近縁のものほど親和性が高く,接木部分の太さの違いも目だたない。しかしながら,多数の例外があり,同科異属間の接木でもウンシュウミカンとカラタチ,ビワとマルメロ,セイヨウナシとマルメロのように親和性の高い組合せもある。
接木の方法は〈枝接〉〈芽接〉〈寄せ接(呼び接)〉に大別される。以下にそれぞれの特徴を述べる。
(1)枝接 1ないし数個の芽をつけた枝を適当な長さに切って台木に接ぐ方法で,台木の削り方や台木と接穂の合せ方から〈切り接〉〈割り接〉〈合せ接〉などに分けられる。このうち最も広く用いられるのは切り接で,接穂は普通2芽をつけて枝を切りとり,基部の片側を1mm程度の厚さで2~3cm垂直に削りとり,反対側は45度の角度になるように斜めに切り落とす。台木は地上5~7cmのところで切断し,形成層にかかる程度に垂直に2~3cm切り下げ,ここに接穂をさし込んで両者の形成層を合わせ,ビニルテープなどで結束する。切り接の場合,台木は実生や挿木によって増殖された一年生のものを用いることが多く,二年生以上の太い台木に接木をする場合には,台木の切断面の中央部に垂直に切込みを入れ,この切込みにくさび形に削った接穂をさし込む割り接を行うことが多い。枝接は普通,冬にとった枝を貯蔵しておいて,3~4月に行われるが,ツバキやカエデのように接木の難しい種類では,生長中の新梢を台木の新梢に割り接し,ビニル袋をかぶせるという方法で,夏に接木を行うことがある(緑枝接)。
(2)芽接 今年伸びた枝の葉芽の一つと葉柄を少量の木質部をつけて削りとり,接穂(接芽)とする。台木の樹皮に丁字形の切込みを入れ,樹皮を開いて木質部を露出させ,そこに接芽を挿入し,セロハンテープやひもで結束する方法で,8~9月に行い,台木が落葉した後,接芽の上で台木を切断する。枝接よりも簡単で失敗が少なく,少数の接穂から多数の苗木を作ることができるが,苗木の養成期間は1年長くなる。
(3)寄せ接(呼び接) 接穂を母植物から切り離さずに接木をする方法で,接穂と台木の枝の一部を削り,この部分の形成層を合わせて結束し,活着後,両者の不用部分を切断するものである。活着率が高く,能率のよい接木法である。キュウリ,スイカ,メロン,ナス,トマトなどでは土壌伝染性の病虫害を回避したり,低温下での生育を促進したりするために接木をすることが多いが,その場合には呼び接することが多い。
執筆者:杉山 信男
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…《日本書紀》に白ツバキが書かれ,《万葉集》ではヤマブキやアジサイの八重咲きを示唆する歌がある。ナラノヤエザクラは聖武天皇が発見,移植したと伝えられるが,これが後世広がったのは接木(つぎき)の技術による。藤原定家は《明月記》で,それにふれている。…
…接木のさいに,接木植物の地下部となる部分をいう。台木に接着させる部分は接穂または穂木といい,台木と接穂は相互に影響を及ぼし合う。…
※「接木」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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