乳幼児を入れて揺り動かし寝かせる育児用具。欧米ではゆったりした籠が用いられているが、スウェーデン、ノルウェーなどに住む人々や樺太(からふと)(サハリン)のウイルタ人、ニブヒ(ギリヤーク)人などでは小さな籠を使用している。こうした育児用具は昼間用のものと夜間用のものを使い分けている所や、外出の際に背負って出かけることができるようになっている所など、形や使用法はさまざまである。
日本では飯の保温に使う藁(わら)製の入れ物を用いた所が多く、持ち運びが自由で、いろりの端に置いたり、田や畑の畦(あぜ)に置いたりした。丸木を下に置いて揺することができるようにする所もあった。呼び名はイズミ、エジコ、ツグラ、コシキ、エジメ、イズミキ、クルミ、ヨサフゴなどとさまざまである。これらは藁製のものばかりではなく木製のものもあり、竹製の籠を用いる所もあった。男鹿(おが)半島では木製の桶(おけ)を使い、いちばん底には籾殻(もみがら)を敷き、その上に藁しべ、蓆(むしろ)、木灰、蓆、藻を順に敷く。その上に子供を、エジミマキといって襟のついた薄いふとん2枚に包んで入れる。藻は1日に3回、灰・蓆は1日に1回ほど取り替えた。子供を眠らせるときには、籠の下に丸太を入れ、すこしずつ動かして揺する。三重県などのヨサフゴは麦藁でつくるが、編むときにシュロ縄を使ってじょうぶにした。そして子供をヨサフゴに入れるとよく寝るといわれた。子供が大きくなると、子供は自分の体重で揺することができ、自然の揺り籠となった。イズミは多くは置いたまま使うが、仙台地方では梁(はり)から紐(ひも)を吊(つ)るして揺することもあった。吐噶喇(とから)列島などでは、イサとよぶ木製の四角な浅い箱の四隅に紐をつけて天井から吊るして揺する。柱と柱の間に縛り付け、そこに子供をのせて揺する所もあった。いずれも揺り籠としてつくられたものは少ないが、イズミは1日でつくらなければ子供が育たないとか子に祟(たた)るなどといったりする。また、これら育児用具に子供を入れ始める日は、東日本では生後3日目、7日目、吐噶喇列島では6日目の名付け祝いと決まっていた。
[倉石忠彦]
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