象牙を紅,緑,紺などで染め,撥彫(はねぼり)で文様を白く浮き出させたもの。さらに賦彩することもある。《東大寺献物帳》に〈紅牙撥鏤尺〉とあるが《唐六典》には〈鏤牙(るげ)〉とあり,撥鏤はその和称といえる。法隆寺献納宝物の内に舶載の針筒や牙尺が遺り,《玉装箱》の蓋掛りにも応用されている。また興福寺金堂鎮壇具にも〈緑牙撥鏤刀子鞘〉が含まれる。正倉院には撥鏤は多数遺されるが,用途は牙尺,刀子把,琵琶撥,如意柄,筥床脚,棊子等に及ぶ。この時代の撥鏤の技法は不明だが,伝統的技法は象牙を酢で煮,染料でさらに煮染めし,途中媒染剤を入れて色を固定する。印刀で片切彫りのように撥彫し,膠(にかわ)で賦彩する。象牙は安南産が最良という。象牙細工は先史時代からあり,エジプトや西洋で発達し,東洋には唐代に伝播して撥鏤を生んだと思われる。日本では平安時代以降は材料の関係もありほとんど行われず,江戸時代にわずかに櫛などに見いだされる程度である。
執筆者:中里 寿克
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
…竹では,美しい自然斑のある斑竹を筆などに用いている。このほか特殊なものとして撥鏤(ばちる)がある。表面を薄く染めた象牙に撥彫(はねぼり)し,文様を白く表した華麗なもので,紅牙撥鏤尺,紺牙撥鏤棊子などがある。…
…象牙の原材が収蔵されていることは製品を輸入しただけでなく,日本でも原材を求めてそれに加工したことが知られる。その象牙彫の遺品としては笏や,櫛に製したもの,筆管の装飾に用いたものなどがあるが,注目すべき技法を示すものとしては,紅牙撥鏤(こうげばちる),あるいは緑牙撥鏤と称し,紅あるいは緑に染めた象牙に細密彫刻を施したもので(撥鏤),尺および撥にこの種の遺品がある。またこの時代盛んに行われた木画と称する象篏(ぞうがん)の,細い界線の部分にも象牙が用いられた。…
※「撥鏤」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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