改訂新版 世界大百科事典 「擬人主義」の意味・わかりやすい解説
擬人主義 (ぎじんしゅぎ)
anthropomorphism
人間以外の対象に人間的属性を投射し,人間anthrōposの形morphēをもつものとして理解するのが擬人主義(または擬人化)である。歴史的には,投射の対象が神であるときに,特にこの語を使うことが多かった。この場合には神人同型説などの訳語があてられる。人間が神を表象としてとらえようとするとき,擬人化は避けえないものか,また適切なことであるのかなど,宗教の立場で種々議論されている。他方,自然界の動物や樹木や岩などが“生きて”おり,人間と共通であるとのとらえ方は,古代アニミズムの世界観などではむしろ当然のことであり,特別の呼び方をするまでもない発想法だったといえる。
現代では擬人主義という用語は,心理学や動物学において,批判的な含みをこめて用いることが多い。幼児の心理が擬人化を中心にしていることは,子供向けの物語などによく示されている。発達心理学の立場からすると,これはすべて自己に結びつけて理解する“自己中心性”(ピアジェ)の現れである。行動主義心理学は心よりも行動に注目し,ここから擬人化とは逆に,実験用ネズミなどの行動をもとにして,人間をとらえる立場も強まった。いわば人間の擬鼠(ぎそ)化ratomorphismである(A. ケストラー)。現在,擬鼠主義的人間観の行過ぎへの反省も再び生じて,素朴な擬人主義を脱却したうえで,改めて動物の“心”について考えることの可否なども,論ぜられている。
執筆者:長野 敬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報