六訂版 家庭医学大全科 「放射線腸炎」の解説
放射線腸炎
ほうしゃせんちょうえん
Radiation enteritis
(食道・胃・腸の病気)
どんな病気か
婦人科や泌尿器科の悪性腫瘍(子宮がん、卵巣がん、前立腺がんなど)に対して行われた放射線治療の副作用として生じる腸管の障害で、腸管粘膜の
放射線腸炎は通常、照射中3カ月以内に起きる早期障害と、照射後6カ月~1年以上たって(なかには10年以上をへて)生じる晩期障害とに分けられます。
原因は何か
腸管粘膜は、
早期障害は、放射線の腸粘膜細胞への直接障害による一過性の病変で、放射線治療の中止により回復します。
一方、晩期障害は粘膜変化だけではなく、大腸壁や周囲組織の動脈の内膜炎や血栓形成により生じる障害で、腸粘膜にびらんや深い潰瘍がみられ、障害が強い場合には腸管の
症状の現れ方
放射線治療中に起こる早期障害では、放射線
これに対して晩期障害は、腸粘膜だけでなく腸管全体に病変が生じるため、強い粘膜の炎症や深い潰瘍ができ、持続的あるいは間欠的な下血やしぶり腹がみられ、時に大量出血することもあります。また、腸管の狭窄により腹痛や便の細小化がみられ、狭窄が高度になると
検査と診断
以前に放射線治療のを受けたことがあり、下痢や血便、腹痛などの症状がみられる場合には本症を疑います。確定診断には大腸内視鏡検査が有用で、粘膜の肥厚や充血、毛細血管拡張などの特徴的な所見がみられます。腸管の狭窄をとらえるには、注腸X線が有用であり、瘻孔の描出にはCT、MRが有用です。
治療の方法
早期障害に対しては、照射中であれば、照射を中止します。それに加えて中心静脈栄養による腸管安静、サラゾピリンやステロイドの投与などの保存的治療が行われます。
晩期障害に対しては、軽症であれば早期障害の時と同様に保存的治療が試みられますが、保存的療法が無効であった時には外科的治療が試みられます。理論的には、病変部が切除され腸管再建が行われればよいわけですが、切除は困難であり合併症の頻度が高いため、小腸病変に対してバイパス手術、直腸病変に対しては人工肛門造設術にとどまることが多いのが現状です。
武田 宏司
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報