放射線腸炎(読み)ほうしゃせんちょうえん(その他表記)Radiation enteritis

六訂版 家庭医学大全科 「放射線腸炎」の解説

放射線腸炎
ほうしゃせんちょうえん
Radiation enteritis
(食道・胃・腸の病気)

どんな病気か

 婦人科や泌尿器科悪性腫瘍子宮がん卵巣がん前立腺がんなど)に対して行われた放射線治療の副作用として生じる腸管の障害で、腸管粘膜壊死(えし)が起こり、ひどい下痢などを引き起こします。頻度としては、子宮類内膜腺がん治療後に発症するものが最も高く、放射線治療が行われた子宮がんの5~15%に生じるといわれています。治療線量が60Gyを超えると発生率が高くなります。発生部位として最も多いのは直腸ですが、S状結腸、回腸にも生じます。

 放射線腸炎は通常、照射中3カ月以内に起きる早期障害と、照射後6カ月~1年以上たって(なかには10年以上をへて)生じる晩期障害とに分けられます。

原因は何か

 腸管粘膜は、骨髄(こつずい)や性腺と同様に常に活発に細胞がつくられているところで、そのために放射線感受性の高い組織です。

 早期障害は、放射線の腸粘膜細胞への直接障害による一過性病変で、放射線治療の中止により回復します。

 一方、晩期障害は粘膜変化だけではなく、大腸壁や周囲組織の動脈の内膜炎や血栓形成により生じる障害で、腸粘膜にびらんや深い潰瘍がみられ、障害が強い場合には腸管の狭窄(きょうさく)、さらには周囲臓器や皮膚との瘻孔(ろうこう)を形成します。

症状の現れ方

 放射線治療中に起こる早期障害では、放射線宿酔(しゅくすい)に伴う全身倦怠(けんたい)感や食欲不振、下痢、下腹部痛、軽度の下血などが照射後3~7日めにみられますが、これらの症状は一過性で、放射線治療が終了すると消失します。

 これに対して晩期障害は、腸粘膜だけでなく腸管全体に病変が生じるため、強い粘膜の炎症や深い潰瘍ができ、持続的あるいは間欠的な下血やしぶり腹がみられ、時に大量出血することもあります。また、腸管の狭窄により腹痛や便の細小化がみられ、狭窄が高度になると腸閉塞(ちょうへいそく)を起こすこともあります。この他にも、膀胱や腟が瘻孔(ろうこう)を形成し、気尿(きにょう)気泡が混じる尿)や腟からの糞便の排泄がみられたり、腸管の穿孔(せんこう)により腹膜炎を起こすこともあります。

検査と診断

 以前に放射線治療のを受けたことがあり、下痢や血便、腹痛などの症状がみられる場合には本症を疑います。確定診断には大腸内視鏡検査が有用で、粘膜の肥厚や充血、毛細血管拡張などの特徴的な所見がみられます。腸管の狭窄をとらえるには、注腸X線が有用であり、瘻孔の描出にはCT、MRが有用です。

治療の方法

 早期障害に対しては、照射中であれば、照射を中止します。それに加えて中心静脈栄養による腸管安静、サラゾピリンやステロイド投与などの保存的治療が行われます。

 晩期障害に対しては、軽症であれば早期障害の時と同様に保存的治療が試みられますが、保存的療法が無効であった時には外科的治療が試みられます。理論的には、病変部が切除され腸管再建が行われればよいわけですが、切除は困難であり合併症の頻度が高いため、小腸病変に対してバイパス手術、直腸病変に対しては人工肛門造設術にとどまることが多いのが現状です。

武田 宏司

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

内科学 第10版 「放射線腸炎」の解説

放射線腸炎(腸炎)

(3)放射線腸炎(radiation enteritis)
 腹腔内や骨盤内臓器の悪性腫瘍(主として子宮癌,卵巣癌,前立腺癌)に対して放射線治療が行われた場合に生じる腸管の傷害である.傷害の発現は照射線量や照射方法などの物理的因子と生体の個体感受性の因子によって異なる.多くは30~40 Gyの照射線量から急性傷害が起こる可能性がある.照射後の期間により3カ月以内に起こる早期傷害と6カ月から25年にわたって起こる晩期傷害とに分けられる.持続的かつ進行性であることが多い.
 病因としては早期傷害は放射線の腸粘膜細胞への直接傷害であり,晩期傷害は放射線照射によって腸管壁細小動脈の内膜の膨化増生などによって動脈内膜炎や血栓形成が進行し,虚血性変化が生ずることが原因で発生すると考えられている.早期傷害では粘膜傷害により粘膜の発赤,浮腫,びらん,出血がみられ(発生頻度は1~11.6%),晩期傷害では血管障害による潰瘍や線維化による狭窄・瘻孔形成がみられる.
 罹患部位は過半数が直腸・S状結腸で,ついで回腸と続く.症状は早期傷害では下痢,腹痛がみられ,晩期傷害に移行するにつれて出血,便通異常などの狭窄症状をきたす.放射線治療後に症状が現れた場合,本疾患を疑う.内視鏡,注腸X線で傷害部位,程度を確認する. 病期は第Ⅰ度:紅斑,毛細血管拡張を伴った易出血性の粘膜,第Ⅱ度:潰瘍形成,第Ⅲ度:狭窄形成,第Ⅳ度:穿孔,膿瘍,瘻孔形成に分類されることが多く,それに応じた治療を行う.治療は第Ⅰ度であれば照射の中断により多くは軽快する.第Ⅱ度ではサラゾスルファピリジン,ステロイド坐薬や注腸などの薬物療法,安静,補液を行う.第Ⅲ,Ⅳ度では外科的治療が必要である.[峯 徹哉]
■文献
Cantey JR: Infections diarrhea. Pathogenesis and risk factors. Am J Med, 28: 65-75, 1985.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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