放射線腸炎

内科学 第10版 「放射線腸炎」の解説

放射線腸炎(腸炎)

(3)放射線腸炎(radiation enteritis)
 腹腔内や骨盤内臓器の悪性腫瘍(主として子宮癌,卵巣癌,前立腺癌)に対して放射線治療が行われた場合に生じる腸管の傷害である.傷害の発現照射線量や照射方法などの物理的因子生体の個体感受性の因子によって異なる.多くは30~40 Gyの照射線量から急性傷害が起こる可能性がある.照射後の期間により3カ月以内に起こる早期傷害と6カ月から25年にわたって起こる晩期傷害とに分けられる.持続的かつ進行性であることが多い.
 病因としては早期傷害は放射線の腸粘膜細胞への直接傷害であり,晩期傷害は放射線照射によって腸管壁細小動脈の内膜の膨化増生などによって動脈内膜炎や血栓形成が進行し,虚血性変化が生ずることが原因で発生すると考えられている.早期傷害では粘膜傷害により粘膜の発赤,浮腫,びらん,出血がみられ(発生頻度は1~11.6%),晩期傷害では血管障害による潰瘍や線維化による狭窄・瘻孔形成がみられる.
 罹患部位は過半数が直腸・S状結腸で,ついで回腸と続く.症状は早期傷害では下痢,腹痛がみられ,晩期傷害に移行するにつれて出血,便通異常などの狭窄症状をきたす.放射線治療後に症状が現れた場合,本疾患を疑う.内視鏡,注腸X線で傷害部位,程度を確認する. 病期は第Ⅰ度:紅斑,毛細血管拡張を伴った易出血性の粘膜,第Ⅱ度:潰瘍形成,第Ⅲ度:狭窄形成,第Ⅳ度:穿孔,膿瘍,瘻孔形成に分類されることが多く,それに応じた治療を行う.治療は第Ⅰ度であれば照射の中断により多くは軽快する.第Ⅱ度ではサラゾスルファピリジン,ステロイド坐薬や注腸などの薬物療法,安静,補液を行う.第Ⅲ,Ⅳ度では外科的治療が必要である.[峯 徹哉]
■文献
Cantey JR: Infections diarrhea. Pathogenesis and risk factors. Am J Med, 28: 65-75, 1985.

出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報

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