教育投資論(読み)きょういくとうしろん

日本大百科全書(ニッポニカ) 「教育投資論」の意味・わかりやすい解説

教育投資論
きょういくとうしろん

教育支出を消費観点からだけとらえるのではなく、その投資的効果を強調する理論、または投資的効果を測定することを目ざした理論を含めて、一般に教育投資論とよんでいる。理論的方法としては、教育の収益率分析が用いられることが多い。教育の収益率には個人的収益率と社会的収益率とがあり、前者は個人が負担する教育費と教育を受けた結果個人に帰属する収益とを、後者は社会全体が負担する教育費と教育の結果社会全体に帰属する収益とを比較しようとするものである。日本において、教育投資論は、1960年(昭和35)の経済審議会の「国民所得倍増計画」に示され、62年の文部省(現文部科学省)の教育白書『日本の成長と教育』、翌年経済審議会答申「経済発展における人的能力開発の課題と対策」などにおいて、昭和30年代後半に政策論として活発に展開された。

[大桃敏行]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教育投資論」の意味・わかりやすい解説

教育投資論
きょういくとうしろん
investment in education

教育費支出が個人的には被教育者の生涯稼得力を増大させ,社会的には国民所得の成長に寄与する点で,投資的効果をもつという説。教育が人間の労働能力を向上させ,経済の生産性を増進させることは早くから認識されていたが,最近の教育投資論は,先進国発展途上国とを問わず,人的資本の整備拡充こそが経済社会発展の鍵だとする各国政府のマンパワー政策に基づき,国民経済レベルでの計量化を企図している点に特徴がある。しかし理論,計量方法ともに未解決の問題が少くない。

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世界大百科事典(旧版)内の教育投資論の言及

【教育費】より

…教育をおこなうために必要な人的物的諸条件を整えるための経費。教育投資論では,義務教育以後の教育機会を得る者が,仮に進学せず就職していた場合に稼得したはずの所得(放棄所得)をも教育費とみる。発達に影響を与える家庭環境も潜在的に教育費の一部とみなしうる。…

【補償教育】より

…イギリスでは,67年のプラウデン報告に基づき,68年と69年にそれぞれ教育優先地域計画および地域社会発展計画が開始されている。 補償教育の理念は貧困の原因として,貧困から脱出しようとしない貧困者自身の生活態度,あるいは貧困階層の実体をなしている黒人,アメリカ・インディアン,スペイン語系(メキシコ系,プエルト・リコ系など)といった少数民族の文化の中に根深い欠陥があるとし,こうした欠陥をもった文化の中で育つ子どもたちに対して教育によってその欠陥を補償しようとする文化剝奪論cultural deprivation(貧困の文化論culture of poverty)と,貧困階層の青少年の教育に対する投資は社会的に利潤を産出しうるとする教育投資論とから理論化される。補償教育政策の動向は,アメリカにおける人種差別撤廃を求める公民権運動など社会的不平等を是正させる社会運動の前進を背景としているが,その成果をめぐっては,基礎学習の獲得や自律の精神の育成など明らかな改善がみられたという報告がある一方で,激しい論争がつづけられている。…

※「教育投資論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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