教育費(読み)キョウイクヒ

デジタル大辞泉 「教育費」の意味・読み・例文・類語

きょういく‐ひ〔ケウイク‐〕【教育費】

国および地方公共団体教育活動のために支出する費用
子女の教育のために支出する個人負担の費用。

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精選版 日本国語大辞典 「教育費」の意味・読み・例文・類語

きょういく‐ひケウイク‥【教育費】

  1. 〘 名詞 〙
  2. 教育活動のために国および地方公共団体が支出する費用。
    1. [初出の実例]「市町村立小学校教育費を補助する為国庫は毎年予算を以て定むる所の金額を支出す」(出典:市町村立小学校教育費国庫補助法(明治三三年)(1900)一条)
  3. ひとりの子供を教育して社会に出すまでの通園、通学に必要な個人負担の費用。
    1. [初出の実例]「教育費、新聞代の如きは、日本の職工社会にては寧ろ無用の物のみ」(出典:日本の下層社会(1899)〈横山源之助〉四)
  4. 家計費における支出の一つ。両親や保護者などが子女の教育のために負担する費用。

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改訂新版 世界大百科事典 「教育費」の意味・わかりやすい解説

教育費 (きょういくひ)

教育をおこなうために必要な人的物的諸条件を整えるための経費。教育投資論では,義務教育以後の教育機会を得る者が,仮に進学せず就職していた場合に稼得したはずの所得(放棄所得)をも教育費とみる。発達に影響を与える家庭環境も潜在的に教育費の一部とみなしうる。たとえば,教育的に貧困な家庭環境にある児童生徒の不利益を補うためにアメリカなどで進められている補償教育政策においては,教育費支出の項目に,健康診断,医歯療サービス,家庭生活の改善,レクリエーション活動が含まれている。公教育における教育費負担の原理としては,教育のもたらす利益を公的なもの(社会全体の政治的経済的文化的発展への寄与)と私的なもの(個人の生涯所得の増加)とに二分し,私的利益に対応する部分は受益者である学生生徒およびその家庭の負担とすべきであるという考え方(受益者負担主義)と,教育を受ける権利の保障および教育の機会均等の実現のために学校教育費と社会教育費のすべてを公費負担とすべきであるという考え方(無償教育=公費負担主義)がある。日本国憲法26条は〈義務教育は,これを無償とする〉と規定しているが,無償の範囲が義務教育の授業料不徴収にとどまるか否か,高等教育の教育費負担のあり方に対してはいかなる意義を有するのかについて広く見解が分かれている。

 教育費の存在はきわめて古くから見いだされ,たとえば前4世紀のギリシア社会において弁論術を教えるソフィストたちの授業料が高いことが問題になっている。また大宝令では,大学(五位以上の子弟と史部の子弟を教えた)の維持のために勧学田職田等を設けていた。しかし,一般に青少年の知識や技術の訓練民衆の生産労働の中でおこなわれていた時代には,民衆の教育のための教育費は問題にならない。民衆のための教育が学校という特別の施設でおこなわれるようになる近代資本主義社会の成立とともに,教育費は今日のように教育制度の基本的な問題となる。こうした教育費の発生の歴史性を重視するところから,教育の経済的基礎が貨幣によって支えられるものと規定し,教育費を,貨幣経済が普遍化する近代社会において社会と教育の関係を表す最も基礎的なカテゴリーとする見方が成立する。これによれば教育費は教育の諸条件を整備するという内容をもつものであるが,そのことによって教育費は教育にあたかも一つの商品であるかのような性質を与える役割を果たすことになる。福沢諭吉が,〈元来学問教育も一種の商売品〉であって,親が子女に買う衣服飲食と異ならないと述べた(《教育の経済》)のは,この点をついている。この観点からみれば,教育費の受益者負担主義は私的利益の追求のための教育という意識を助長するものであり,無償教育=公費負担の原理は教育の成果を社会的公共的利益のために役立てるべきものとする意識を促すものと意義づけられる。
義務教育費国庫負担法 →教育財政
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「教育費」の意味・わかりやすい解説

教育費
きょういくひ

教育活動に要する費用といっても、教育をどの範囲までのものとするかによって、また費用を直接費用に限定するか間接費用まで含めるかによって、意味内容は大幅に異なり、算定される実額も変わってくる。一般的には、国民の教育を受ける権利を保障するため組織された公教育を中核として、そこおよびその周辺に展開される教育活動に必要な費用をさすものとして用いられ、その意味ではトータルな国民の文化的再生産費用という性格を帯びる。

[松井一麿]

区分

教育費の区分のうち、負担主体による区分、すなわち、国および地方自治体の公財政支出のうちの教育関係部分(教育公費)と、家庭経済からの教育関係支出(教育私費)の区分は、文化的再生産費用の分担実態を示すものとして重要である。教育を受ける権利の保障のための公共負担の原則と、受益者負担の原則の具体的関連が、両者の支出実態に現れているとみることもできる。

[松井一麿]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「教育費」の意味・わかりやすい解説

教育費
きょういくひ

家計のなかで,子女の教育にあてられる費用。文部科学省の調査によると,これを学校教育費 (学校への納付金,寄付金,教科学習費,教科外活動費,保健衛生費,通学費など) と,家庭教育費 (家庭における補助学習費,たとえば図書,物品,学習塾などの経費,教養娯楽費) に大別している。これらの費用は年々増加が著しいが,家庭の負担が特に大きいのは,親の年齢が若くて所得の少いときにあたる幼稚園の教育費と,高校以後,特に大学 (私立) における教育費である。

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世界大百科事典(旧版)内の教育費の言及

【教育財政】より

…国家・地方財政中の教育費に関する部分を通常,教育財政と呼ぶ。古代ギリシアのポリス当局による,体育奨励のための市民の競技場出席の費用負担をもって,教育の国庫補助の起源とする説がある。…

【地方財政】より

…この間,地方経費が増大するなかで,府県営業税の国税への移管や国税確保のための付加税率の制限がなされ,日露戦争後には地方財政とくに農村財政の窮迫が問題となってくる。(2)大正デモクラシー期 第1次大戦後,公営事業費,土木費,教育費,公債費を中心に地方財政とくに都市財政が急膨張するなかで,大正デモクラシー運動の一環として地方自治の確立が要求され,その結果,1926‐29年までに郡制・郡役所廃止,地方議員普通選挙制,地方自治権の拡充と監督官庁による統制の緩和が実現し,不完全ながら近代的地方自治の形態が頂点に達するとともに,市町村義務教育費の一部国庫負担(1918)や戸数割の市町村独立税化(1926)が実現する。しかし,懸案の地租・営業税の地方移譲や本格的な地方財政調整制度は実現せず,地方財政の困難と地方税負担の過重・不公平は解決せず,せっかくの自治権拡充も〈みせかけの自治〉に終わった。…

※「教育費」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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