ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「経済発展」の意味・わかりやすい解説
経済発展
けいざいはってん
economic development
経済学の多くの概念と同様,発展途上諸国の明確な定義はない。とはいえ,広義では一般に国民1人あたりの所得水準が国の繁栄と経済発展のレベルを示す指標とみられている。発展途上諸国の間でも非常に大きな違いがあるため,特定の国の発展が遅れている理由と経済構造を変える最も効果的な方法について一般的な結論を下すのはむずかしい。先進国と発展途上国の間にみられる所得水準の違いは,人間の力ではどうしようもない条件 (天然資源,気候など) によるものばかりではないとされているため,すべての国家は発展できる潜在能力をもっていることになる。したがって,開発経済学の課題は潜在能力を最もうまく実現する方法を決定することである。反対に,開発経済学には低開発の主要な原因と兆候に関する研究が含まれる。発展途上諸国の間には大きな違いがあるが,共通した特徴も少くない。発展途上国の大半は,第1次産業 (農業や採取) が国家収入の大半を占めており,数少い種類の生産品が大きな割合を占めていることもままある。第2次産業の活動の水準と範囲はきわめて低く,技術的な未発達を特徴としている。こうした国の大半は大量の余剰人口 (失業ないし不完全就業状態) をかかえ,人口増加率も高い。もう一つの共通した特徴は,貧弱な道路網や輸送網,灌漑設備の欠如といったインフラストラクチャーの不備である。同様に,技術や教育面での人的資源の低開発と経済・金融機関の弱さも重要である。第2次世界大戦以来,先進国と発展途上国が従う開発政策は,ともに問題の経済に欠けている要素を注入することによって状況を変えようとしてきた。このアプローチの好例は,新しい産業部門の建設である。それによって発展途上国の少数の1次産品への依存が緩和されるだけではなく,技術資源や収入を増大させることができる,との考えに基づいていた。大規模な工業化計画には国内の資本資源では一般に不十分であるので,海外投資,国債,政府補助金などの形で外国の資金が大量に導入された。その結果,1950年以来,多くの発展途上国で工業開発が行われた。また,大量の国内外の資本がインフラ開発に投入され,技術をもち訓練された人員の数をふやし質を高めるための計画が立案された。同時に,先進国では発展途上国に有益な世界貿易のシステムを確立すべきであるという声が高まった。こうした方策には,おもな1次産品の価格変動を小さくしたり,途上国で新設された産業の製造品の輸出に特恵待遇を与えることなどが含まれる。
このような政策が経済成長に役立ったことはほぼ疑いはないが,全般的な結果は総じて期待はずれであった。工業化の強調は複雑な製造工場の発達につながるが,熟練工と十分で確実な国内市場と輸出市場を欠いていたため成功しなかった。そのうえ,その種の産業は労働集約的というより資本集約的であるため,大量の雇用を生み出す効果はなかった。もう一つの結果は,資源が大規模な工業プロジェクトや高速道路,空港などのインフラ整備に振向けられたために,国民の大多数が依存する伝統的な経済分野の資金が不足し,ほとんど発展がみられなかったことである。教育の大変革計画は,経済が十分に吸収できない高学歴者を大量に生み出すことになった。もう一つの深刻で継続的な問題は,人口増加率の抑制に失敗したことであった。要するに,発展途上の非石油産出国では 1970年代に国民所得のある程度の成長がみられたが,急速な人口増加によって1人あたりの国民所得の成長はわずかにとどまった。同時に,多くの発展途上国は,高失業率,国際収支の赤字,対外債務の増大などを伴う深刻な経済の構造的不均衡に依然として直面している。したがって,大規模な資本投資計画によって途上国に先進国の経済構造を再現する試みは,発展を達成する最も効果的な方法ではないと広く認められている。
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