散逸構造(読み)サンイツコウゾウ(英語表記)dissipative structure

デジタル大辞泉 「散逸構造」の意味・読み・例文・類語

さんいつ‐こうぞう〔‐コウザウ〕【散逸構造】

平衡状態ではない散逸過程の下にある物質系で、自己組織化によって形成される巨視的な構造ベナール対流ベロウソフジャボチンスキー反応などが知られる。

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「散逸構造」の意味・わかりやすい解説

散逸構造
さんいつこうぞう
dissipative structure

エネルギーが出入りする開放系では,エントロピーのより低い,秩序ある相状態へ系が移行する場合がある。このようにエネルギーの散逸に伴って発生する秩序構造を I.プリゴジンは散逸構造と呼んだ。たとえば,薄い平皿に入れた液体を静かに加熱したときに生じる蜂の巣構造の縞はベナールの渦と呼ばれ,空間的なパターンが出現する例である。またある種の化学反応で橙赤色と淡青色縞模様が時間の経過につれて交互に変色する現象はベロゾフ=ザボチンスキー反応と呼ばれ,時間的リズムが出現する散逸構造の例である。生物の発生以前に起った化学進化の途上で,エントロピーが低い秩序系を生じる過程があったと推定され,これが生物誕生の謎を解く鍵ではないかといわれている。

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百科事典マイペディア 「散逸構造」の意味・わかりやすい解説

散逸構造【さんいつこうぞう】

温度の異なる二つの物体を接触させると熱が移動してしばらくすると全体として温度差がなくなるが,この温度差がなくなる状態が熱平衡で,熱平衡にない状態のことを非平衡という。また,外界とのエネルギーや物質授受が可能な系を開放系といい,外界からエネルギーや物質を取り込んで別の形でそれを放出することで安定性を保っている系を非平衡開放系いう。非平衡開放系では熱平衡の系では見られない秩序形成現象が現れるが,非平衡開放系に現れる巨視的構造を総称して散逸構造と呼ぶ。これは,ベルギーの物理学者プリゴジンが熱平衡系の秩序構造と区別して導入した。散逸構造は熱平衡構造よりも多様性に富み自然界に現れる多様性を理解する上で重要である。

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知恵蔵 「散逸構造」の解説

散逸構造

物質の拡散など熱力学的な不可逆現象(散逸過程)が進行する非平衡世界に現れる秩序。ベロウソフ・ジャボチンスキー(BZ)反応と呼ぶイオン濃度の振動や、ベナール対流という渦巻く熱対流は代表例。生物界に多い。都市論などでも関心を集める。I.プリゴジンが理論で示した。

(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)

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