パターン形成の仕組みを理解するために、物理学、化学、生物学、情報科学などに広く用いられる概念。無秩序状態の系において、外部からの制御なしに秩序状態が自律的に形成されることをいう。ここで「外部からの制御なしに」とは、外部から細かく手を加えてパターンを作成するような作用がないということを意味する。そういったパターンを特定するような性質をもたない単純な作用、たとえば系が一様に熱せられるといった作用を受けている状態で、系自体がもつ機構によって時間的・空間的パターンが形成される場合は自己組織化といえる。
自己組織化の理論はさまざまな研究領域で分散して考察される、分野を超えた一つのテーマとなっている。物理学・化学の分野で自己組織化の概念が用いられる例としては、結晶形成、多数の原子が位相をそろえた波を放出するレーザー、水平な液層が下から加熱されることによって六角形の格子が生じるベナール対流、硫酸中にいくつかの物質を溶かしたときに同心円状や螺旋(らせん)状のパターンが形成されたり色が規則的に変わったりするベルーソフ・ジャボチンスキー反応などの無機的現象やリポソーム(脂質人工膜)の形成などがあげられる。また、生物学では粘菌の再生などの有機的現象、地球物理学では地震や気象におけるパターン形成のような巨大な現象がある。こうした諸分野よりも抽象的なレベルで自己組織化を考察する、メタ科学的な領域として、セルラー・オートマタ(簡単なルールをもつセルが相互作用により全体として複雑なふるまいをする系)などを扱う情報理論、生命の基本原理を論ずるシステム論などがあげられる。自己組織化という概念は、こういった多様な例にみられる秩序形成の機構を理解するための枠組みだといえる。
自己組織化の理論は前記のようにメタ科学的な性格をもつが、そういった科学の方法が広く受け入れられるようになったのはアメリカの数学者ウィーナーが1940年代に提唱したサイバネティックスの役割が大きい。サイバネティックスでは、生体組織についても情報理論、統計力学的なアプローチが有効であることを示した点で自己組織化理論の源流の一つといえる。1950年代から1960年代、サイバネティックスの方法による生物、物理、化学分野での探求が進むにつれ、観察者自身も考察の対象に含んだサイバネティックスを打ち立てることが求められ、「自己」と関連する諸概念の探求が開花した。そのなかで自己組織化の概念がさまざまな分野で研究され始める。初期のサイバネティックスはネガティブ・フィードバックによって系を安定に制御するという構図を打ち出したが、ウィーナーの『サイバネティックス』Cybernetics第2版(1961)では、自己組織化が振動系の引き込み現象として論じられるという進展を示している。
第二世代のサイバネティックス研究で特筆すべきなのは1958年にハインツ・フォン・フェルスターHeinz Von Foerster(1911―2002)が設立したイリノイ大学の生物コンピュータ研究所の活動である。フェルスターはウォーレン・マカロックWarren McCulloch(1899―1969)、ウィリアム・ロス・アシュビーWilliam Ross Ashby(1903―1972)、ウンベルト・R・マトゥラーナHumberto Romesín Maturana(1928―2021)らを招き、因果の円環的連鎖の問題、自己言及性の問題、偶然性が組織化に果たす機能などを研究した。アシュビーは自己言及のパラドックスに由来する純粋な自己組織化の論理的不可能性を提起し、フェルスターは自己言及の閉じた輪から脱出するためにノイズからの秩序の産出を論じた。一方、マトゥラーナはあくまで自己言及の円環にとどまり、1970年代にフランシスコ・バレラとともに、閉じた作用回路によって生命を考察するオートポイエーシス理論を築き上げた。
1970年代以降の自己組織化理論の中心的な主題は、非平衡系においてエネルギーの流入によってエントロピー増大が避けられ、ゆらぎから秩序が形成されるということであるが、その理論は1970年代の非線形非平衡熱力学の新展開、とくにイリヤ・プリゴジーヌの業績に由来する。プリゴジーヌは、平衡状態から十分隔たった系は外部からエネルギーと物質の供給を受けている限り、非線形的なポジティブ・フィードバックにより、ゆらぎがかき消されず全体の秩序形成が起こることを示し、このような構造を散逸構造とよんだ。この自己組織化研究の革新は、ハーケンHerman Haken(1927―2024)によるシナジェティクス(多数の自由度をもつ非線形系において、各部分は隷属原理によって少数の大局的な秩序パラメーターに支配されているということを利用して、自己組織化現象を解析する理論)研究やアイゲンのハイパーサイクル(複数の自己触媒系が連結し、円環となって作動するシステム。自己維持、自己複製の機構を示すモデルとなっている)研究と呼応し、また、前述したようにさまざまな分野における秩序形成研究を生んだ。
[加藤茂生]
『ノーバート・ウィーナー著、池原止戈夫他訳『サイバネティックス――動物と機械における制御と通信』第2版(1962・岩波書店)』▽『ヘルマン・ハーケン著、牧島邦夫・小森尚志訳『協同現象の数理――物理、生物、化学的系における自律形成』(1980・東海大学出版会)』▽『G・ニコリス、I・プリゴジーヌ著、小畠陽之助・相沢洋二訳『散逸構造』(1980・岩波書店)』▽『M・アイゲン、R・ヴィンクラー著、寺本英他訳『自然と遊戯――偶然を支配する自然法則』(1981・東京化学同人)』▽『I・プリゴジン、I・スタンジェール著、伏見康治・伏見譲・松枝秀明訳『混沌からの秩序』(1987・みすず書房)』▽『G・ニコリス、I・プリゴジン著、安孫子誠也・北原和夫訳『複雑性の探求』(1993・みすず書房)』
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
分子がファンデルワールス力などによって自発的に集合し,規則正しく整列した組織を形成すること.この現象を利用してつくられるラングミュア-ブロジェット膜(LB膜)は,1970年代ごろから界面化学の分野で研究が行われている.LB膜は水面上に展開・圧縮して形成させた単分子膜を,ガラス基板などに繰り返し移しとることによって作成される.この方法は,配向した多層膜を容易に作成することができる.また,水溶液中でAuなどの単結晶の表面にアルカンチオールを作用させると,アルキル鎖の相互作用により,規則正しくアルカンチオールが配列し,自己組織化単分子膜(self-assembled monolayer:SAM)を形成することが知られている.この際,Auとアルカンチオールは物理吸着するだけでなく化学的な結合が形成されるため,安定な単分子膜を得ることができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
(尾関章 朝日新聞記者 / 2007年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
…入力を表現する入力層と,出力を表現する出力層の間に複数の中間層をもち,ここで特徴の抽出や変換を行えるように層の間の結合を学習する。中間層の特定の素子がどのような機能を果たすかはあらかじめ定められておらず,学習が進むにしたがって機能分化が自己組織化されるという特徴がある。画像や音声の認識などのパターン認識に近い領域が得意であるが,記号や構造の学習能力もあることが知られている。…
… 現在のコンピューターでは,個々のアプリケーションにはそれに応じたソフトウェアにより対処する。これに対してニューラルコンピューティングにおいては,学習や自己組織化と呼ばれる法則により,ニューロン間のシナプス結合係数やニューロンの閾値(しきいち)(発火,非発火を隔てる値)をその応用に適するように変化させることが重要な手段となる。 ニューラルネットワークの学習能力は,パターン認識などに応用可能な図1-aのような多層構造のフィードフォワード型ニューラルネットワークにおいて,入力層に与えられた入力パターンに対して,出力層において望ましい出力パターンを出力するように学習を行うという問題設定で詳しく調べられた。…
※「自己組織化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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