文法学派(読み)ぶんぽうがくは

改訂新版 世界大百科事典 「文法学派」の意味・わかりやすい解説

文法学派 (ぶんぽうがくは)

サンスクリット文法学と言語哲学を事としたインドの有力な一学派。サンスクリットでバイヤーカラナVaiyākaraṇaと呼ばれる。インドでは古くからベーダ聖典の解釈学の一部門として文法学が重視され,六つのベーダ補助学ベーダーンガ)の一つとして確立された。ベーダ聖典研究としての語源学の先駆者としては前500年ころにヤースカが現れて《ニルクタ》を著した。現存する最古の文法学書は前5~前4世紀に活躍したパーニニの《アシュターディヤーイー》(別名《パーニニ・スートラ》)である。この書はきわめて巧妙かつ簡潔に文法の規則を構成したもので,現代の言語学者チョムスキー生成文法を創案するにあたって有力なヒントをえたといわれる。また,その後現代に至るまでサンスクリットは基本的にパーニニが決定した文法規則に従わなければならないものとして固定されてきた。

 パーニニを契機として文法学はベーダの補助学の域を脱し,独立の学問分野として発展した。《パーニニ・スートラ》は,前250年ころのカーティヤーヤナの《評釈書(バールティカ)》ならびに前2世紀ころのパタンジャリの《大注解書(マハーバーシャ)》によって補修,発展させられた。パタンジャリは,語の意味するところを句義パダールタ)として実体,性質,運動に分類した。この発想法は,後にバイシェーシカ学派に受け継がれた。また彼は,意味を伝達するものとしての語の本体をスポータ(語のつぼみ)であるとし,消滅する音声(ナーダ)と完全に区別した。この説は後に5世紀後半のバルトリハリによって形而上学的に展開され,〈スポータ説〉として確立された。またバルトリハリは,ベーダーンタ学派の説を取り入れ,語の本体が実はブラフマンにほかならないとする独特の〈語ブラフマン論〉を主張した。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「文法学派」の意味・わかりやすい解説

文法学派
ぶんぽうがくは

インド哲学学派。古代インドにおいては、ベーダ聖典研究の六補助学科の一つとして文法学(ビヤーカラナvyākaraa)が成立し、早くから専門の学者が輩出した。パーニニ(前5~前4世紀)は文典『アシュターディヤーイー』を著して、文法学を独立の科学として確立した。その後、カーティヤーヤナ(前250ころ)およびパタンジャリ(前2世紀?)によって詳細に補修訂正され、微細な点まで規定されて、文法学はいちおう完成された。しかし彼の没後、文法学の伝統は著しく衰微したが、5世紀になって、バルトリハリ(5世紀後半)はそれを復興したにとどまらず、一つの哲学学派にまで発展させた。

[前田専學]

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世界大百科事典(旧版)内の文法学派の言及

【インド哲学】より

…後代多くの派に分かれるが,インド思想界の主流を形成して今日に至っている。以上の6学派のほかに,文法学派も体系を整え,語ブラフマン論śabdabrahmavāda,スポータ論を主張した。
[中世第1期]
 古代の諸体系が無神論的であるのに対して,バクティ(信愛)を強調する有神論的な中世的宗教思想の発達する時代である。…

【語常住論】より

…古代インドのミーマーンサー学派,ベーダーンタ学派,文法学派が主張した説。言葉は常住,ないし言葉と意味の結合関係は永遠不変であるとする。…

※「文法学派」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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