断熱仮説(読み)だんねつかせつ

日本大百科全書(ニッポニカ) 「断熱仮説」の意味・わかりやすい解説

断熱仮説
だんねつかせつ

物理学において古典論の結果と量子論の結果とを関係づけ、古典論を用いて量子論の結果を得ることができるようエーレンフェストが提唱した仮説量子力学に基づいて得られた結果は、古典論を用いた結果と一般に著しく異なっている。しかしながら双方の結果は無関係ではない。両者の関係を示すためエーレンフェストは、無限にゆっくりと力学系変化を与えたとき、変化の始まる前の力学系の状態が量子論で許される状態ならば、この力学系の状態は変化の途中やその後においても量子論的に許される状態であって、しかも力学系の途中の変化は古典論を用い扱うことができることを仮定した。空洞内を定常的に振動している放射に対し空洞を速く縮めていくと、放射は乱れて振動は定常的でなくなる。これに対し、空洞の縮み方が無限にゆっくりである場合には放射の振動はつねに定常的である。放射は空洞に圧力を与えており、空洞を縮めるためには外力が必要で、その結果として放射のエネルギーEは増加する。この場合放射の振動数νも増加するがE/νはこのゆっくりした変化に対して一定であることを古典論を用いて示すことができる。このときE/νは断熱不変量であるという。断熱仮説によれば、あるEとνに対し量子論的なE/νの値がわかれば古典論を用いて力学系をゆっくり変化させて得られるE'/ν'は量子論的に許される値となる。

田中 一]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

化学辞典 第2版 「断熱仮説」の解説

断熱仮説
ダンネツカセツ
adiabatic hypothesis

前期量子論において,ある力学系に対して,その運動を支配する外部変数をきわめてゆっくり変化させる場合,系の運動経過は通常古典力学を用いて論じることが許される.このとき,系が変化のはじまるまえに量子論的に許された状態にあれば,変化の途中およびその後においても,系は量子論的に許された状態にある.この仮説を断熱仮説あるいはEhrenfestの断熱仮説という.これは,一般的な量子条件を見いだす重要な手がかりとなった.

出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報

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