原子の内部の運動に比べて空間的にも時間的にもはるかに大きなスケールでおこる現象を扱う物理学。その領域は、ブラウン管の中での電子の運動から天体の運動まで、また物質中の光線の進路からアンテナによる電波の発射などにまで及ぶ。原理的には、原子の内部まで含めて扱うことのできる量子物理学から、対象の作用量がプランク定数よりはるかに大きくなるとき漸近的に導き出されるものと考えられる(対応原理)。古典物理学の大黒柱はニュートンの力学とマクスウェルの電磁気学の2本で、厳密な因果律causalityの成り立つ決定論であることを特質としている。それらの大筋は19世紀末までに完成したが、応用面の研究は今日も盛んに行われ、新発見が続いている。
ニュートンの力学は、質点(質量をもつが大きさのない点)に対するニュートンの運動の三法則(1687年の著書『プリンキピア』に述べられた)と万有引力の法則をはじめとする力の諸法則とを基礎とする。大きさのある物体は、これを細分し各細片を質点とみなして扱う。それらの質点は相互に力(内力)を及ぼし合い、かつ外からの(重力のような)力(外力)を受けて運動する。その総合が物体の運動になるのである。一時刻における質点すべての位置と速度の総体を、その時刻での当の物体の状態stateという。質点に働く内力・外力の法則がわかっていれば、物体の任意の一時刻の状態(初期条件)が与えられたとき、以後の各時刻の状態は運動方程式から完全に決定される。これが力学における因果律である。流体や弾性体においては、質点の及ぼし合う内力の法則は各物質に特有の定数(密度、粘性係数、弾性定数など)を含む。これらは古典物理学ではいちいち実測して定めるほかなく、理論的導出は量子物理学に譲るのである。
マクスウェルの電磁気学(1864~1871)の対象は電場Eと磁束密度の場Bで、これらは電荷qをもつ粒子が時刻tに空間点rを速度vで通る瞬間に働く力の法則f=q[E(r, t)+v×B(r, t)]により定義される。このEやBのように、一時刻tに空間の各点に物理量が分布しているとき、そこに場があるという。古典物理学は粒子と場の二元論である。空間における電荷と電流の分布の法則と誘電率・帯磁率という物質定数が明らかであれば、任意の一時刻の電磁場E、Bから、以後の各時刻の電磁場がマクスウェルの方程式により完全に決定される。これが電磁気学における因果律である。
一般には、電荷と電流の分布は荷電粒子の運動で決まり、その運動は場EとBから決まる力によることから、一時刻の状態から未来を予言するには、ニュートンの運動方程式とマクスウェルの電磁場の方程式を連立させて解く。
粒子と場の対立は量子物理学で止揚される。
20世紀に入って、古典物理学は熱放射や物質の比熱の問題に適用されて失敗し、さらに原子の線スペクトルのみならず原子の安定性そのものさえ説明しえないことが認識されて、原子内の現象については量子力学にとってかわられた。他方、光速に近い高速度をもち、しかし速度の変化は急激でないという運動の領域ではアインシュタインの相対性理論による修正があった。ただし、この修正を受けた理論までを古典物理学に含めることも多い。
[江沢 洋]
『リチャード・フィリップス・ファインマン著、江沢洋訳『物理法則はいかにして発見されたか』(岩波現代文庫)』▽『江沢洋著『現代物理学』(1996・朝倉書店)』
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…これは正準交換関係が量子力学にとって真に基本的な要素であることを示している。
【量子力学の歴史】
ニュートンの力学とマクスウェルの電磁気学を柱とする古典物理学は,天体の運動と地上の諸現象を解き明かし,一時は,残る課題は諸定数の有効数字を増すことのみとさえいわれた。X線の発見(W.C.レントゲン,1895)とその波動性の確認(M.vonラウエ,1912)も,電子の粒子性の発見(J.J.トムソン,1897)も古典物理学によってなされたのだった。…
※「古典物理学」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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