1900年にプランクが空洞内の放射のエネルギー分布式を提唱して以後、古典論に対置した、物理量の値の不連続性によって特徴づけられる試みが積み重ねられ、やがて首尾一貫した理論体系すなわち量子力学として完成し今日に至った。古典論に対置したこれらの試みと理論体系全体を量子論という。このうち量子力学以前の試み全体をとくに前期量子論あるいは古典量子論とよぶ。現在では量子論は素粒子、原子核、天体、分子過程、量子流体、固体、磁性などの研究、量子光学、量子電磁気学、量子力学の基礎論の展開など、量子現象(量子論の対象とする現象)に関する広範な分野として発展している。これらの分野を総称して量子物理学とよぶことがある。量子論という用語は多くの分野で用いられているが、量子力学とその関連分野を漠然とさしていることが多い。
プランクの分布式以後、アインシュタインは、振動数νの光のエネルギーがエネルギー量子hν(hはプランク定数)の値をとると仮定して光電効果を理解することができることを示した。またボーアは、水素原子内電子の軌道として古典論が与える連続無限個のうち、軌道の作用(運動量を運動の一周期にわたって座標で積分したもの)がプランク定数の整数倍になるもののみが電子の定常状態として現実に存在すると考え、水素原子の安定性と放射吸収される光のスペクトルを導いた。ハイゼンベルクはこのボーアの原子模型から出発して1925年量子力学の行列表示すなわち行列力学に到達したが、この理論では物理量が直接ある基礎的な素量すなわち量子の整数倍として与えられるのではなく、座標と運動量の間に与えられた新しい関係、つまり交換関係という量子条件に基づいて導き出されている。一方ド・ブローイは1923年電子にも波動性のあることを予測したが、シュレーディンガーは1926年この電子の波動性を電子がポテンシャルの作用を受けている場合に拡張して波動力学に到達した。ここでは物理量がプランク定数を含んだ演算子になっており、エネルギーや作用の非連続性は結果として導き出されている。その後、行列力学は波動力学と同一内容を有することが示された。量子物理学と総称されている多方面の発展については冒頭で述べたとおりである。しかしながら量子電磁力学のように場の量子論には理論そのものに固有な難点を蔵しており、量子論の次の理論への模索がたびたび行われたが、量子力学を超える理論はまだみいだされていない。
[田中 一・加藤幾芳]
『小出昭一郎著『量子論』改訂版(1990・裳華房)』▽『村井康久著『量子論講義』(1990・朝倉書店)』▽『C・J・アイシャム著、佐藤文隆・森川雅博訳『量子論――その数学および構造の基礎』(2003・吉岡書店)』▽『カール・R・ポパー著、小河原誠・蔭山泰之・篠崎研二訳『量子論と物理学の分裂』(2003・岩波書店)』▽『清水明著『量子論の基礎――その本質のやさしい理解のために』新版(2004・サイエンス社)』▽『吉田武監修、高林武彦著『量子論の発展史』(ちくま学芸文庫)』
M. Planck(プランク)(1900年)がはじめて導入した量子の概念を発展させ,分子,原子,原子核などの世界に適用させる体系的な理論.Planckにはじまり,A.J.W. Sommerfeld(1919年)がまとめた前期量子論と,W.K. Heisenberg,P.A.M. Dirac,E. Schrödinger(1925~1926年)などにはじまり現在に至る量子力学とを含んでいる.量子論とそれまでの古典理論との相違は,前者がそのなかにプランク定数hを含んでおり,後者がそれを含まないところにある.あるいはhを0とみなすのが古典理論であり,hの大きさを無視できず重要な量として理論に含めているのが量子論である.上述の量子論の分類はいかにしてhを理論に導入するかによっている.前期量子論では,たとえば電子の運動の基本方程式は古典論と同じであり,ただその運動量,角運動量,エネルギーなどの量のとる値にhが関係した特別な条件,つまり量子条件があると考える.これに反して量子力学では,コンプトン効果にもとづくハイゼンベルクの不確定性原理やL. de Broglieの物質波の概念が導入される.原子の世界に適用するには古典力学は根本的に矛盾があり,この世界における電子など,粒子のふるまいを定める新しい基本方程式があるものと考える.たとえば,シュレーディンガーの波動方程式もその結果の一つである.この基本方程式にはプランク定数が含まれており,ハイゼンベルクの不確定性原理ともド・ブロイ波動の概念ともよい関連をもっている.前期量子論もいろいろと見事な成功をみたが,それには限界があって主として系のエネルギー値記述などに限られていた.これに反し,量子力学はまさしく原子の世界の理論体系をとらえたもので,その成功は単に系のエネルギー値記述にとどまらず,量子状態の遷移に伴って放出される光の強度や遷移の時間的速度なども一定の論理的手順で計算することができる.また,原子の世界特有の現象といえる状態遷移における光の生成や光電効果における光の消滅,原子核のβ崩壊におけるβ粒子の生成など,光や粒子の生成,消滅を伴う現象も記述することができる.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
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