改訂新版 世界大百科事典 「力学系」の意味・わかりやすい解説
力学系 (りきがくけい)
dynamical system
力学系とは与えられた集合上の点が時間とともに推移していく状況を数学的に記述する一つの方法である。Xを位相空間とし,φ:X×R→XはXと数直線Rとの直積からXへの連続写像で,各実数tに対し写像φt:X→Xをφt(x)=φ(x,t)により定義するとき,次の2条件が成り立つとする。(1)φ0=恒等写像,(2)φt◦φs=φs+t。tを時間とみるとき,φtはXの各点にその点のt時間後の位置を対応させる写像とみなされ,したがってφはXのすべての点の時間的な流れを記述している。このようなわけで,φをX上の連続力学系または流れと呼ぶ。φを,変換φt(t∈R)のつくる群とみて,1パラメーター変換群と呼ぶこともある。Xが微分可能多様体のとき,φが微分可能写像であれば,これを微分可能力学系という。力学系の考えは,常微分方程式の解の大域的な状態を位相的方法で調べるというH.ポアンカレの研究を発端としている。実際,例えば,ユークリッド空間の開集合U上で定義された形dx/dt=f(x)の微分方程式の初期条件x(0)=xをみたす解曲線x(t)をφt(x)とするとき,Uのあるコンパクト部分集合の外ではfの値は0という仮定があれば,φ={φt}はU上の力学系となる。Xの各点xに対し,{φt(x)|-∞<t<∞}をxを通る軌道という。とくに1点となる軌道を特異点または平衡点といい,閉曲線となる軌道を周期軌道という。力学系の理論では,特異点や周期軌道の存在,t→+∞またはt→-∞のときの軌道の挙動,軌道の大域的状態の小さな摂動による変化などがトポロジーの立場から研究される。
執筆者:中岡 稔
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報