日本大百科全書(ニッポニカ) 「新作能」の意味・わかりやすい解説
新作能
しんさくのう
能の創作は、観阿弥(かんあみ)、世阿弥(ぜあみ)、宮増(みやます)、観世元雅(もとまさ)、金春禅竹(こんぱるぜんちく)、観世信光(のぶみつ)、金春禅鳳(ぜんぽう)、観世長俊(ながとし)の5世代約200年でいちおう終わった。今日五流が現行曲として常時のレパートリーとしているのは、この古典の作品群である。豊臣(とよとみ)秀吉の命による太閤(たいこう)能(『明智討(あけちうち)』『吉野花見』など)や現代に伝わらぬキリシタン能(『ノアの箱舟』『キリストの生誕』など)を経た江戸時代における新作は、能としてはごくわずかである。普通、明治以降の創作を新作能という。
口火を切った高浜虚子(きょし)に『時宗(ときむね)』『奥の細道』『義経(よしつね)』など。昭和の新作能を代表する土岐善麿(ときぜんまろ)に『夢殿(ゆめどの)』『青衣女人(しょうえのにょにん)』『親鸞(しんらん)』『実朝(さねとも)』『秀衡(ひでひら)』『復活』『鶴(つる)』『使徒パウロ』ほか。現代詩による『智恵子(ちえこ)抄』、詩劇形式の『鷹姫(たかひめ)』の試みも注目される。一方、大正天皇即位式の『大典(たいてん)』、第二次世界大戦中の『忠霊(ちゅうれい)』や、『復活のキリスト』など政治的な新作能もある。また、イェーツが能にヒントを得て書いた『鷹の井戸』が、英語のまま能として上演されたり、『ハムレット』も英語能となった。パイプ・オルガンを加えた『伽羅沙(がらしゃ)』なども試みられている。なお新作狂言には三宅(みやけ)藤九郎、飯沢匡(ただす)に作品が多く、また狂言能ともいうべき『楢山節考(ならやまぶしこう)』などの野心的な試みも行われた。
[増田正造]
『土岐善麿著『新作能縁起』(1976・光風社書店)』