法隆寺東院の中心にある堂。東院伽藍は聖徳太子の斑鳩宮(いかるがのみや)のあった所で,太子一族滅亡の後荒廃していたのを,738年(天平10)ころ行信が造営した。夢殿の名は,斑鳩宮に同名の建物があり,聖徳太子が時々その中にこもり政事や仏教に思いをめぐらせたが,そのとき金人(仏像)が現れて妙義を告げたという伝説にもとづく。太子等身と伝える救世(ぐぜ)観音を祀る。夢殿は八角円堂で,この形式は現存遺構は少ないが鎮魂の堂の役割をもつ例が多い。現在の堂は,鎌倉時代,1230年(寛喜2)に大改造をうけている。本尊救世観音は1884年フェノロサが開くまで長らく秘仏であったが,聖徳太子の没後さほど経ない時期の造立で,西院金堂の釈迦三尊像などと並ぶ飛鳥仏の優品である。夢殿の基壇上に安置された行信僧都像(8世紀後半,乾漆造)と道詮律師像(9世紀後半,塑造)は東院の創立と中興にあたった僧の肖像である。このほか夢殿には聖徳太子立像(13世紀後半),聖観音像(11世紀後半)があり,旧蔵品として盛唐の檀像彫刻の優品である九面観音,本尊の鎮火神として納められていた善女竜王像(鎌倉時代後期)などがある。
東院は,夢殿を中心に舎利殿絵殿,礼堂,回廊,鐘楼,伝法堂などで構成されている。舎利殿絵殿(現在の堂は1219)は本来の宝蔵殿を平安時代に現在の形に改めたもので,絵殿には聖霊会の本尊であった聖徳太子座像(1069),《聖徳太子絵伝》(1069)などが安置される。舎利殿には勝鬘経講讃御影(鎌倉時代)と舎利塔(14世紀)が安置される。伝法堂(8世紀)は東院の講堂にあたる。もとは橘夫人の住宅で奈良時代の住宅遺構としても貴重である。堂内に3組の阿弥陀三尊像(奈良時代),木造四天王像(平安時代),薬師如来像(奈良時代)など多数の仏像が安置される。東院回廊,礼堂,鐘楼(いずれも鎌倉時代)は奈良時代以来の伽藍形態をよく残している。
→法隆寺
執筆者:山岸 常人
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奈良県生駒(いこま)郡斑鳩(いかるが)町にある法隆寺東院の正堂。八角円堂。国宝。本尊は救世観音(ぐぜかんのん)。夢殿の呼称は、聖徳太子が経疏(きょうしょ)執筆中に疑問を生じて持仏堂に籠(こも)ると、夢に金人(きんじん)が現れて疑義を解いたとの伝承による。
[編集部]
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一―一九 佐伯啓造編 鵤故郷舎 昭和五―一四年刊
出典 平凡社「日本歴史地名大系」日本歴史地名大系について 情報
…1963年花柳寿応と改名。おもな振付に《夢殿》《木賊刈(とくさかり)》などがある。重要無形文化財保持者,日本芸術院会員。…
…この名称は経典には説かれていないので,観音としては正統的な尊像ではない。作例としては法隆寺夢殿の本尊で,聖徳太子等身の御影と伝える観音菩薩立像が著名であるが,大阪四天王寺や京都三千院の菩薩半跏像もこの名で呼ばれており,形像は一致していない。名称の由来は《法華経》観世音菩薩普門品の中の〈観音妙智力 能救世間苦〉という表現にあると考えられており,平安時代に盛んとなる法華経信仰と,さらに聖徳太子の伝説によって,この尊名が生まれたと推測されている。…
…唐から律を伝えた鑑真の唐招提寺は私寺ながら4町の寺地を有し,当時の金堂,講堂を存している。また聖徳太子をまつる法隆寺東院が発願され,中心に八角円堂の夢殿を置いて塔廟を表現した。法隆寺には大講堂,経蔵,鐘楼,東西僧房,食堂等,古代寺院の各種建物をよく残している。…
…南都七大寺あるいは十五大寺の一つに数えられた。伽藍は西院と,夢殿を中心とする東院の二つに区画される。
【歴史】
創建については正史に明記がないが,《日本書紀》には606年(推古14)7月斑鳩寺に水田100町を施入したとある。…
…神牀に座すとは天皇自ら沐浴斎戒して寝ることを意味しており,それは夢(神託)を得るための祭式的行為でもあった。この神牀こそは後に述べる夢殿(八角堂)の原型であったのではないかと思われる。 法隆寺の夢殿については,古い伝承を示すものとして《上宮聖徳太子伝補闕記》や《聖徳太子伝暦》に太子が夢占いをするために夢殿に入ったという話が残されており,夢殿とは夢を見る殿であったことはまちがいない。…
※「夢殿」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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