国指定史跡ガイド 「旧下ヨイチ運上家」の解説
きゅうしもヨイチうんじょうや【旧下ヨイチ運上家】
北海道余市郡余市町入舟町にある運上家の跡。運上家とは、江戸時代にアイヌ民族が漁獲した水産物あるいは手工品と、米・酒・塩・小刀などとの交易を行った施設で、松前藩の蝦夷地経営において敷かれていた場所請負制度によって、知行主の交易場所を請け負う商人が場所内に設けたものである。ここに支配人、通辞、帳役、番人などが常駐し、盛んにアイヌとの交易が行われた。この場所請負制度は明治初年まで存続し、請負場所は数十から数百あったといわれている。ヨイチ場所は18世紀にすでに設けられていたことが確認されており、上下2つの運上家があり、現在まで姿をとどめているのが、この下ヨイチ運上家である。1853年(嘉永6)に建てられたもので現存する唯一の運上家となっている。改変されてはいるが、軸部は当時のまま残り、幕藩体制下の蝦夷地経営を現在に伝える貴重な遺構である。1973年(昭和48)に国指定史跡となった。造りは北陸の漁家建築と同じ系統の意匠で切り妻平入りの長大な石置き屋根、格子窓、紙障子戸をもつ。間口40m、奥行き16m、建築面積540m2。内部の空間は広く、板張りのダイドコロでは太い柱や梁が見られ、部材の多くは当時のものがそのまま残っている。廊下の両側にある座敷には、風俗人形が展示され、場所請負人によって派遣された支配人や松前藩士の姿を知ることができる。座敷から見える庭は運上家復元工事に合わせて復元整備された。JR函館本線余市駅から中央バス「余市役場前」下車、徒歩約10分。