日本大百科全書(ニッポニカ) 「映画カメラ」の意味・わかりやすい解説
映画カメラ
えいがかめら
movie camera
cinecamera
映画撮影に必要な基本的機構、すなわち撮影対象の運動を、長尺のフィルム上に、瞬間的に分解記録した連続写真をつくる装置をもったカメラをいう。ムービー・カメラ、シネカメラともいう。
[高村倉太郎]
基本的機構および部品
映画カメラはレンズ、シャッター、間欠輸動装置、マガジン、ファインダー、駆動装置などの部分よりなる。
マガジン内に収納されている生フィルムは、フィルムにあけられているパーフォレーション(送り穴)とスプロケット(歯車)により、連続的に一定速度で間欠輸動装置に送られる。間欠輸動装置は、露光に必要な時間だけフィルムの1こまをアパーチュア(レンズからの光線がフィルムに当たる窓)に停止させる。露光が終わるとかき落し爪(つめ)などにより、フィルムを1こま分だけ移動させる。この間アパーチュア直前に装置されているシャッターは、間欠輸動装置と連動し、フィルムがアパーチュアに停止中はレンズからの光をフィルムに露光させるために開き、フィルムがかき落し爪などにより1こま移動する間は、レンズからの光がフィルムに当たらぬよう遮断する。露光済みのフィルムはふたたびスプロケットにより送られて、マガジン内に収納される。映画の標準速度は1秒間24こまである。
[高村倉太郎]
間欠輸動装置
映画カメラの心臓部ともいうべき重要な部分で、露光時フィルムの動揺を防ぐためのレジストレーション・ピン(パイロット・ピン)の有無など、この装置の精度はそのままカメラの評価にもつながる。
[高村倉太郎]
シャッター
金属製の円板の一部がある角度で切り開かれていて、通常1こまに対し1回転する。切り開かれている部分(開角度)は0~180度ぐらいまで調整できるものが多いが、開角度が固定のものもある。
[高村倉太郎]
レンズ
一部のカメラを除き、各種の焦点距離のレンズを迅速に交換使用できる。交換方式はカメラ前面にあるターレット板に数本のレンズを装着し、これを回転させて交換使用するもの、単一レンズを一定規格のレンズマウント(レンズをカメラに固定するための座金)により着脱交換するものなどがある。通常35ミリメートル幅フィルムを使用するカメラは焦点距離50ミリメートル、16ミリメートル幅フィルム使用カメラは焦点距離25ミリメートルのレンズを標準としている。
[高村倉太郎]
種類と用途
映画カメラは劇、記録、学術、スポーツ、宣伝、アニメーションその他各種を撮影するために、多くの機種がつくられているが、プロ用として65ミリメートル幅フィルムを使用(映写用は70ミリフィルム)する大型カメラ、35ミリメートル幅フィルムを使用する標準型、16ミリメートル幅フィルムを使用する小型、およびアマチュアを対象とした8ミリカメラに大別できる。
[高村倉太郎]
35ミリ用カメラ
35ミリカメラは、主として劇映画撮影を目的として発達したもので、初期のサイレント映画時代はアメリカのベル・ハウエル、フランスのパルボゥなどが代表機種であった。アメリカのアイモはスプリング駆動による小型ハンディタイプで、第二次世界大戦当時の報道用として大いに活躍した。トーキーの発展に伴い防音装置を施した同時録音用カメラが開発され、代表的機種としてアメリカのミッチェルNCタイプおよびBNCタイプ、フランスのスーパーパルボゥなどがある。なかでも、1920年に発売されたミッチェル・スタンダード型(サイレント用)、1932年に発売された同NC型(同時録音用)は、日本における劇映画撮影の主力カメラとして活躍した。1950年以降、第二次世界大戦後の社会の復興のなかで娯楽としての映画の製作が活発化するのに伴い、新たな映画カメラの開発が相次ぎ、ミラー・レフレックス式のシャッターが内蔵されたミッチェルS35R(マークⅡ)、同マークⅢが発表されたのをはじめ、ムービーカム、パナフレックス、アトーン35Ⅲ、アリフレックス435、同535などの高級機が生まれ、いずれも同時録音用で、ミラー・レフレックス式シャッター、バッテリーによるモーター駆動、撮影速度は24こまの標準のほか速度可変などの装備がなされている。
[高村倉太郎]
16ミリ用カメラ
16ミリカメラは、従来、学術研究家や一部のアマチュア愛好家に愛用されていたコダック・スペシャル、フィルモ、ボレックス、ボリューなどのサイレント用カメラはあったが、1950年以降テレビ放映用映画の製作が盛んになり、16ミリフィルムの性能は著しく向上した。このため、16ミリ用カメラの需要が急激に伸び、ドイツのアリフレックス16ST、同BL、フランスのエクレールNPR、アメリカのCP16、日本ではキヤノン・サウンド・スクーピックなどのミラー・レフレックス式シャッターの小型軽量のカメラが相次いで開発された。これらのカメラのなかには、その後製造が中止されたものもあり、現在はアリフレックス16SRⅡ型、同Ⅲ型、アトーンXTR・PROD75などが主力カメラとして活躍している。
[高村倉太郎]
高速度カメラ
被写体の運動をスローモーションで再現するための高速度撮影は、普通のカメラの機構では1秒間120こまくらいまでが限度で、これ以上の高速度撮影には専用のカメラを使用する。カメラとしては、スターレックス(毎秒50~3000こま)、アクションマスタ500(毎秒24~500こま)、ナックE‐10EE(毎秒300~1万こま)、フォトソニックIB(毎秒12~1000こま)、ゴーディオン・ダイナファックス350(毎秒200~3万5000こま)などがあり、主として16ミリフィルムを使用するものが多い。
[高村倉太郎]
大型カメラ
大型映像用として開発された65ミリフィルム使用の大型カメラ(映写時のプリントは70ミリフィルム)をいうが、現在は博覧会などのイベント用大型映画や70ミリプリントを上映する特設映画館用の大型映画の撮影に使用されている。カメラのおもなものは、ジャパックス、アリフレックス765、アストロフレックス、アイマックス、オムニマックスなどがある。
[高村倉太郎]
水中ブリンプ
水中ブリンプは、水中撮影用にカメラを収納する防水装置で、使用するカメラの機種にあわせてつくられている。おもなものとして、アクアフレックス(アリフレックス16ST用)、アリマリーン(アリフレックス16SR用)、スガマリーン・ブリンプ70DR(ベル・ハウエル700用)などがある。
[高村倉太郎]
8ミリ用カメラ
アマチュア愛好家に支持された8ミリカメラには、レギュラー・タイプ、シングル8(エイト)、ダブル8などの方式があり、各種のカメラが発売されていた。ビデオカメラの急激な普及により減少したが、根強い愛好家のためにわずかに製作が行われている。新しい機種の開発は行われていない。
[高村倉太郎]
将来の展望
NHKが開発したハイビジョンテレビ(HDTV)をはじめ、電子映像機器のデジタル化に伴い、ソニーの1080/24P、パナソニックのDVCPRO HD720Pカメラなどのフィルムを使用しないデジタルカメラによる映画製作が行われるようになり、いわゆるデジタルシネマ、Eシネマ(エレクトリックシネマ)などとよばれる新たな分野に関心が集まっている。今後は、フィルム映像と電子映像との競合や共存が予測される。とくに電送による映画の配給が急速に進む可能性があり、撮影、配給、興行の各分野で大きな変化が訪れようとしている。
[高村倉太郎]
『伊藤智昭亘編『35mmカメラの取り扱い方』第2版(1991・日本映画テレビ技術協会)』▽『リチャード・プラット著、リリーフ・システムズ訳『ビジュアル博物館34 映画』(1992・同朋舎出版)』▽『太田文男著『16mmカメラの取り扱い方』(1993・日本映画テレビ技術協会)』▽『「映画テレビ技術手帳」編集委員会編『映画テレビ技術手帳』 隔年版(日本映画テレビ技術協会)』