日本大百科全書(ニッポニカ) 「更年期うつ病」の意味・わかりやすい解説
更年期うつ病
こうねんきうつびょう
女性の閉経期にみられる抑うつ症状。女性はこの時期にうつ病にかかりやすくなる。閉経期によくみられる抑うつ症状には、抑うつ気分、自信喪失、決断困難、不安、不眠、倦怠(けんたい)感、記憶力や集中力の低下、性欲の低下などがある。めまい、耳鳴り、肩こり、便秘など多彩な身体症状を呈する場合もある。
閉経の時期にうつ状態になりやすい理由の一つとして、子どもが思春期から成人になり自立し、夫も仕事が忙しいために既婚女性が孤立しやすくなるといった心理社会的な影響が考えられる。このように子どもが巣立ってひとり家庭に残された母親の心理を表すために、「空の巣(からのす)症候群」や「白壁症候群」といった表現が使われることもある。
こうした心理社会的要因に加えて、閉経期によるエストロゲンの低下もうつ病の原因になる。ホルモンの変化に対してエストロゲン補充療法が行われて効果をあげている。それ自体に抗うつ効果があるというよりはむしろ、うつ病の発症を予防する働きや、抗うつ薬と併用して抗うつ薬の効果を強める働きが効果につながっていると考えられている。したがって、更年期障害のために抑うつ症状が現れている場合でも、抗うつ薬による治療は不可欠である。
そのほかに、(1)症状の記録をつける、(2)食事療法(少量で頻回のバラエティーのある炭水化物や適量のビタミンと鉄分を摂取し、塩分、チョコレート、カフェイン、アルコールを制限する)、(3)適度な有酸素運動、(4)ストレス・マネジメント、(5)リラクゼーション、(6)人間関係の改善、(7)自助グループへの参加(必要な場合)、(8)啓発書を読む、なども役にたつ。
[大野 裕 2020年7月21日]