精選版 日本国語大辞典 「有り明け」の意味・読み・例文・類語
あり‐あけ【有明・在明】
- 〘 名詞 〙
- ① 陰暦十六夜以後、月がまだ天にありながら夜の明けかけること。また、そのころ。→有明の月。
- [初出の実例]「あり明のいみじう霧りわたりたる庭に、下(お)りてありくをきこしめして」(出典:枕草子(10C終)七八)
- ② =ありあけ(有明)の月(つき)《 季語・秋 》
- ③ 単に、夜明けをいう。明け方。
- [初出の実例]「碁いさかひ二人しらける有明に〈怒誰〉 秋の夜番の物もうの声〈珍碩〉」(出典:俳諧・ひさご(1690))
- ④ =ありあかし(有明)
- [初出の実例]「公方蝋燭のありあけをだみすまいて、大酒飲でいらるる」(出典:花上集鈔(16C頃)上)
- 「不意に襖を開けて、下女が有明を下げに来た」(出典:煤煙(1909)〈森田草平〉三三)
- ⑤ 香木の名。分類は真那賀(まなか)。香味は苦甘。六十一種名香の一つ。
- ⑥ 薫物の名。かおりは甘い。
- [初出の実例]「有明、山人、黒方や、〈略〉数を尽して薫(た)かれたり」(出典:仮名草子・竹斎(1621‐23)上)
- ⑦ 楊弓(ようきゅう)、大弓で、銭を賭物(かけもの)にするとき、一五文という代わりに用いる隠語。十五夜。
- [初出の実例]「賭的矢代の筈掛銭の異名、〈略〉十五を有明 十五やとも」(出典:随筆・一話一言(1779‐1820頃)一)
- ⑧ 「あさつき(浅葱)」の女房詞。
- [初出の実例]「一 あり明 あさつきの事」(出典:女中詞(元祿五年)(1692))
- ⑨ 「ありあけざくら(有明桜)」の略称。
- [初出の実例]「ありあけ 小輪、中輪あり」(出典:花壇綱目(1661‐73頃)桜)
有り明けの語誌
( 1 )恋歌では男女が共に過ごした夜が明ける時分をいい、最もあわれ深い風情とされる。
( 2 )四季歌では、しばしば秋歌の題材となり、特に長月と結びつく例が多く、既に「万葉集」にも歌われている。俳諧では秋の季語で、月として扱われ、連歌では月の定座に詠まれることが多い。