煤煙(読み)バイエン

デジタル大辞泉 「煤煙」の意味・読み・例文・類語

ばい‐えん【×煤煙】

石油石炭などの不完全燃焼で生じるすすや煙。大気汚染防止法では、硫黄酸化物窒素酸化物一酸化炭素自動車の排気中の鉛化合物なども含める。
[類語]油煙噴煙けむりけぶり・火煙・白煙黒煙炊煙・朝煙・夕煙紫煙香煙硝煙砲煙煙幕排煙狼煙のろしすすくゆらす煙い煙たいむせっぽい

ばいえん【煤煙】[書名]

森田草平の小説。明治42年(1909)発表。作者と平塚らいてうとの心中未遂事件を題材に、近代青年の苦悩に満ちた恋愛を描く。

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精選版 日本国語大辞典 「煤煙」の意味・読み・例文・類語

ばい‐えん【煤煙】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 燃料を燃やしたときに出るすすと煙。多くは燃料が不完全燃焼したとき発生する炭素やタール分などが浮遊しているもの。
    1. [初出の実例]「都の空は煤煙(バイエン)たなびき」(出典:おとづれ(1897)〈国木田独歩〉上)
    2. [その他の文献]〔本草綱目‐水亀集解〕
  2. [ 2 ] 長編小説。森田草平作。明治四二年(一九〇九)発表。作者の平塚らいてうとの心中未遂事件を題材に、自我意識の強い男女の苦悶に満ちた恋愛過程を描く。

すす‐けむり【煤煙】

  1. 〘 名詞 〙 工場の煙突などから出る煙。すすを含んだ黒い煙。ばいえん
    1. [初出の実例]「煤烟(ススケムリ)たなびくもとに葛飾の青茶畑ははるばると見ゆ」(出典:桐の花(1913)〈北原白秋〉哀傷篇)

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改訂新版 世界大百科事典 「煤煙」の意味・わかりやすい解説

煤煙 (ばいえん)

不完全燃焼で発生する炭素分やタール分を含む大気汚染物質の総称。とくに石炭の燃焼によって発生し,この場合には石炭中の硫黄分による硫黄酸化物が混在する。かつてはその濃度をリンゲルマン・スモークチャートなどによる煙の黒さで表していたが,近代工業の発展とともに物質の種類が増え,現在は各種の有害物質の単体の濃度を測定するようになっている。ばい煙による影響は,家屋や洗濯物の汚れ,植物の枯死などにとどまらず,人体への影響としてはロンドンスモッグにみられた急性呼吸器病があり,さらに近年では慢性気管支炎や肺癌などの疾患の原因となることも知られている。

 ばい煙を規制するため,イギリスでは1853年に〈ばい煙法Smoke Act〉が作られている。日本では大阪で1884年に〈船場,島之内には鍛冶,銅吹工場建つること相成らず〉との府達がだされ,第2次世界大戦後は1962年に〈ばい煙の排出の規制等に関する法律〉ができた。現在では大気汚染防止法による規制が行われており,ばい煙はボイラー,金属溶解炉など28の発生施設を対象に,次の3種類に区分されている。(1)硫黄酸化物 燃料その他の物の燃焼に伴って発生するもの。(2)ばい塵 燃料その他の物の燃焼または熱源としての電気の使用に伴い発生するもの。(3)有害物質 物の燃焼・合成・分解に伴い発生するカドミウムとその化合物,塩素塩化水素フッ素フッ化水素フッ化ケイ素,鉛とその化合物,窒素酸化物。
大気汚染
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「煤煙」の意味・わかりやすい解説

煤煙(森田草平の小説)
ばいえん

森田草平の長編小説。1909年(明治42)1月1日~5月16日、『東京朝日新聞』に発表、改稿され4分冊で金葉堂、如山堂、新潮社より刊行(1910~13)。ダンヌンツィオの『死の勝利』の影響のもとに、平塚らいてうとの心中未遂事件に材をとった自伝小説。妻子ある小島要吉は退廃的な生活を送っていたが、自我に目覚めた「新しい女」真鍋朋子(まなべともこ)に新鮮な魅力を抱く。要吉は、朋子を理想化し絶対化したあげく自分のものにしようとするが、その情熱に反し朋子は不可解な言動でこたえようとする。自我と愛欲の渦巻く男女の激しい葛藤(かっとう)のすえ、2人は死によってそれを超越しようとして雪の山中に赴くのであった。作者の文壇出世作。夏目漱石(そうせき)の『それから』に影響を与えた。

[石崎 等]

『『日本現代文学全集41 森田草平他集』(1967・講談社)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「煤煙」の意味・わかりやすい解説

煤煙
ばいえん
smoke

燃焼によって発生するもので,一般には粉塵,すす,亜硫酸ガス,一酸化炭素などをいう。法的には大気汚染防止法 2条によって次のとおり定義されている。 (1) 燃料その他の物の燃焼に伴い発生する硫黄酸化物,(2) 燃料その他の物の燃焼または熱源としての電気の使用に伴い発生する煤塵,(3) 物の燃焼,合成,分解その他の処理 (機械的処理を除く) に伴い発生する物質のうち,カドミウム,塩素,フッ化水素,鉛その他の人の健康または生活環境にかかわる被害を生じるおそれがある物質で政令で定めるもの。

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普及版 字通 「煤煙」の読み・字形・画数・意味

【煤煙】ばいえん

油煙。

字通「煤」の項目を見る

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デジタル大辞泉プラス 「煤煙」の解説

煤煙

北方謙三の長編ハードボイルド小説。2003年刊行。

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世界大百科事典(旧版)内の煤煙の言及

【森田草平】より

…それらの体験が後年《夏目漱石》正・続(1942‐43)の実感的漱石論を生む。他方平塚らいてうとの恋愛事件(1908)に取材した長編《煤煙(ばいえん)》(1909)を発表,知識人男女の恋愛を通して近代の不安を描く作として世評を呼び,その続編《自叙伝》(1911)を書く。大正期には創作よりも翻訳を多く手がけたが,23‐25年の自伝的長編《輪廻(りんね)》で復活,以後《吉良家の人々》(1929)その他の歴史小説を多く執筆した。…

【大気汚染】より

…第1の段階は人類が火を制御しだした以降である。料理や暖房のとき発生したばい煙,廃棄物から発生した悪臭や細菌性浮遊物に悩まされたことが想像できよう。しかし主たる燃料は木材であって,大気汚染は局所的かつ軽微であった。…

※「煤煙」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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