旧暦8月15日の夜を十五夜,名月,お月見と呼ぶことは,日本各地にゆきわたっている。月見だんごを作り,ススキの穂を供えるのは都市とその周辺の例で,地方には意外な習俗,信仰が十五夜に結びついており,これが単なる風流の夜ではなかったことをうかがわせる。和歌山県西牟婁郡では,十五夜には各戸で稲穂といもを結びつけた高いさおを庭先に立てる風がある。高いさおは神の依代と考えられる。沖縄本島とその南北に連なる島々では,旧8月に〈柴挿し〉をもってはじまる長期の節目があって,祖霊の祭祀とイネの収穫祭があわせ営まれる。そして十五夜はちょうどその中に入ってくるようになっている。このような民俗は,本土の十五夜も元来はイネの収穫祭と祖霊祭が営まれる重要な折り目であったらしいことを推測させる。なお,十五夜の行事に本土では供物を盗むことがなかば公認されていること,南九州から南島にかけては綱引きと八月踊あるいは十五夜遊びといった諸要素が結びついている。
十五夜はまた〈芋名月〉と呼ばれるように,サトイモその他のいも類を供える儀礼が顕著である。したがって元来タロイモ系統のいもの収穫儀礼であった十五夜祭儀が,水稲栽培の発達に伴って,第2次的にイネの収穫儀礼と結びつくようになったと考えてよさそうである。ところで中国の華南山地焼畑栽培民であるヤオ族,ミヤオ族などの主要作物はいも類であり,八月十五夜の満月祭はその収穫儀礼であり,新年祭としての意味をもっている。また華南一帯の漢民族の間にも,仮装した女や子どもの物乞い,集団舞踊,畑作物の受贈などの諸要素も中秋節に結びついて認められる。日本と華南における十五夜儀礼のこのような一致は,同一文化複合の脈絡において把握さるべきものであり,今後の興味ある課題として残されている。
→十三夜 →月見
執筆者:直江 廣治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
陰暦の毎月15日の満月の夜のことであるが、通例は陰暦8月15日の夜をいう。この夜、月見をしたり、綱引、相撲(すもう)などを行い、年占(としうら)的行事が多い。月の満ち欠けを基準とする太陰暦では、満月はもっともわかりやすい目印であり、生活の折り目のよりどころとなっていた。1月15日の小正月(こしょうがつ)、2月15日の祈念祭、3月15日の梅若ごと、4月15日ごろの神社の春の例大祭、6月15日ごろの祇園会(ぎおんえ)、7月15日の盆、8月15日の月見、11月15日の霜月(しもつき)祭など、1年を通じて月々の満月を目印として祭りを行う例は多い。東北地方には1月の十五夜に、月の光による自分の影を見て1年の吉凶を占う習俗があるが、同じようなことを南西諸島では8月の十五夜に行っている。十五夜がひと月ごとの境であったり、年の境として意識されたことは、祖霊を祀(まつ)ったり、年占をすることからもうかがえることである。
[鎌田久子]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…新月から14.765日たつと,月が太陽と反対側の位置にきて満月となる。月齢がほぼ15日なので,満月の夜は十五夜と呼ばれ,太陽が西に沈むころに東の空に現れる。その後月の出の時刻はさらにおくれ,下弦の半月は夜半に東の空に現れ,朝方南中する。…
…陰暦八月十五夜と九月十三夜を〈お月見〉〈名月(めいげつ)〉と呼んで,さまざまな供物をして月を拝し,また観賞する風は広く各地にゆきわたっている。都市とその周辺では,名月が古来,詩歌や俳諧の好題目とされてきたこともよく知られている。…
…村八分はじめ,一定期間赤頭巾を被せる方法など,さまざまな罰が加えられた。他方,儀礼としての盗みは,八月十五夜のだんごやサトイモを子どもたちが盗んで歩くことに代表されるが,小正月に他所の道祖神を盗んできたりする所も各地にある。八月十五夜の場合は,盗みは神への供物(くもつ)を神の代行として持ち去ることであると理解され,その役割を子どもが担うものである。…
…なお岡山県川上郡では重陽(ちようよう)の節供(9月9日)に焼米をつくり,大晦日から正月にかけて食べるので,セッキ(節季)焼米といっている。秋田県男鹿市では八月十五夜の月見行事の供え物のひとつに焼米があり,女性はこの夜の供え物を食べてはならぬとされていた。米を焼くという民俗は他にもあり,とくに臨終に近くなった人間に米を焼いて香をかがせ,蘇生させようとすることも焼米の一種である。…
※「十五夜」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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