木炭(英語でcharcoal、フランス語でfusain)を用いた素描の技法および作品。先史時代の人々が木の燃えさしで洞窟(どうくつ)の壁などに記号や図を書き残していることから、木炭はもっとも古い画材の一つであったと考えられる。
素描用画材としての木炭の有用性が注目されるのはルネサンスになってからのことで、チェンニーニは壁画の下図用に有効であると述べ、バザーリは壁画用の大型原寸大下絵(カルトン)に便利としている。画材としての木炭の特質は、紙・カンバスなどの基底材への付着力が天然チョークやインキに比べて著しく弱いことで、そのため恒久的な作品には不向きだが、一方、修正がわりあい自由なため、主として下絵や習作としての素描に多用された。19世紀になると木炭画はもっぱらアカデミックな素描教育の技法となり、今日に至っている。まれにドガやマチスのような画家がこれを創作的な素描画材として好み、優れた例を残している。また、付着力の弱い木炭を基底材に定着させるフィクサティフ(とめニス)は、18世紀のパステル画の流行に伴い良質のものが開発された。今日、素描用木炭はヤナギやブドウの細枝を蒸し焼きにしてつくられ、製法は比較的容易である。
[八重樫春樹]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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