日本大百科全書(ニッポニカ) 「カルトン」の意味・わかりやすい解説
カルトン
かるとん
cartoon 英語
carton フランス語
板紙(ボール紙)のことであるが、絵画材料では板紙でつくられた画板や、デッサン挟みをさすほか、絵画の基底物としても使われている。またフレスコ壁画のような大画面の絵画作品やタペストリーの制作過程において、構図を正確に転写するためにつくられる、厚手の紙に描かれた原寸大の下絵のこともいう。
フレスコ制作のためのカルトンでは、彩色を施した第一のオリジナル・カルトンと、スポルベーロspolveroとよばれるオリジナル・カルトンの輪郭線をトレースした第二のカルトンが制作されることが多い。スポルベーロには輪郭線に従って小孔(こあな)があけられ、壁面にこれを当て、上から木炭やチョークの粉末などをはたきつけて(pouncing)構図を転写する。あるいは、カルトンを壁面に当て、輪郭線に従って硬筆stylusで強く引いて転写する方法もある。カルトンは、モザイク、ステンドグラス、タペストリー制作などのために描かれることも多く、このようなカルトンは、画家が絵画作品として完全に仕上げ、職人はこの原画に従って制作を進める。タペストリーのためのカルトンとしてもっともよく知られている例は、バチカンのシスティナ礼拝堂のためにラファエッロが描いた使徒行伝連作であろう。
[長谷川三郎]