日本大百科全書(ニッポニカ) 「迷路学習」の意味・わかりやすい解説
迷路学習
めいろがくしゅう
maze learning
迷路による学習。迷路は出発点、通路、目標(到達点)の三部分からなる仕組みであるが、通路には選択点があり、目標に通じる通路と袋小路とに分かれる。選択点が一か所のものは通常、Y迷路、T迷路などといわれるが、これをいくつも重ねて数か所に及ぶものがある。被験体は袋小路を避け、順路をたどって目標に到達することを学習する。出発点―通路―目標を一試行とし、試行ごとに袋小路に入った誤りの数、目標到達に要した時間を測定し、その経過を指標として学習過程を研究する。スモールW. S. Smallがロンドン近郊のハンプトン・コートHampton Court迷路庭園を模してつくった6×8フィートのネズミ用迷路が発端となったといわれるが、以来、ネズミを使っての迷路学習の実験が、しきりに行われることとなった。
[小川 隆]
迷路の種類
迷路は、用いられる手掛りで空間迷路spatial mazeと時間迷路temporal maze、出発点から目標が見通せる高架式と通路の分岐点だけがみえる廊下式などに分けられる。空間迷路はT迷路・Y迷路を単位として直線上に配列したものが多く、時間迷路は分岐点の選択が時間的序列で規制されるもので、右左の交代反応、あるいは右右左左の二重交代反応が要請される。交代反応は動物の習性にもみられるが、かならずしも習得されるものではない。二重交代反応は学習に関係し、動物によって可能・不可能が分かれる。
[小川 隆]
迷路の利用
迷路の学習では動物の運動系の手掛りと目標の空間的位置の手掛りとが関係し、反応学習か場所学習かが実験されている。廊下式迷路ではいちいちの選択点で目標への通路を試みと仕損じによって確かめることになり、学習は試行錯誤の過程を余儀なくされるが、高架式迷路では出発点から目標を見通すことも可能で、洞察学習の余地を残している。学習の側面によって実験目的に応じた迷路が選ばれる。また、通路の選択が左・右の空間的方向だけでなく白・黒などの視覚的手掛り、粗・滑などの触覚的手掛りで区別される場合もあり、迷路は弁別学習にも利用される。人間の場合にも同様な迷路の機構が用いられるが、開眼・閉眼で行われる。歩行による身体迷路body maze以外に板上の溝を指や鉛筆でたどる指迷路finger maze、鉛筆迷路stylus mazeなどがある。
[小川 隆]