日本大百科全書(ニッポニカ) 「林あまり」の意味・わかりやすい解説
林あまり
はやしあまり
(1963― )
歌人。東京都生まれ。1985年(昭和60)成蹊大学文学部日本文学科を卒業。この間、前田透(1914―84)主宰の「詩歌」に入会(1981)し、また、井辻朱美(1955― )らの歌誌『かばん』の創刊(1984)に参加するなど、学生時代から熱心に歌作にはげむ。雑誌『鳩よ!』で、歌人として、商業誌へのデビューをはたす。寺山修司の戯曲に多大な影響を受けて培われた林の歌風は、「世界は舞台である」との思考を繰り返していたその劇作家の視点のごとく、ドラマティックな展開と切り口とにあふれている。常にそこには他者との対峙、そして葛藤(かっとう)という芝居空間の基本原則が持ちこまれている。とりわけ作者の奔放であらわな性表現は、常に話題となってきたところであった。単なる肉欲の記述ではなく、性交の中にこそ浄化されるべき現代のエロスとタナトスとが存在することを見据え、果敢に表現しようとしている。平板で怠惰な日常を描いた一行に過剰で普遍的な歌意を込めようとする、視線と筆さばきは歌壇の中でも異彩を放っている。激情をなるべく平易な言葉でわかりやすく、かつ豊かに表現しようとする作歌姿勢から、俵万智などとともに「ライトバース」の旗手と称されてきた。歌集に『MARS☆ANGEL』(1986)、『ベッドサイド』(1998)、『ふたりエッチ』『ガーリッシュ』(1999)、『スプーン』(2002)などがある。エッセイや演劇評論も数多く手がけており、各誌での連載や劇評を担当する。『劇場、このふしぎなおともだち』(1989)、『光を感じるとき』(1996)、『「愛されない」と思っていた私への手紙』(1997)など著書多数。他に演歌歌手坂本冬美(1967― )の「夜桜お七」や「さよなら小町」などの作詞も手がけるなどユニークな存在感をアピールしている。
[和合亮一]
『『劇場、このふしぎなおともだち』(1989・マガジンハウス)』▽『『光を感じるとき』(1996・教文館)』▽『『「愛されない」と思っていた私への手紙』(1997・大和出版)』▽『『ガーリッシュ』(1999・集英社)』▽『『ふたりエッチ』(1999・白泉社)』▽『『スプーン』(2002・文芸春秋)』▽『『MARS☆ANGEL』(河出文庫)』▽『『ベッドサイド』(新潮文庫)』