日本大百科全書(ニッポニカ) 「俵万智」の意味・わかりやすい解説
俵万智
たわらまち
(1962― )
歌人。大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。歌誌『心の花』所属。1986年(昭和61)、作品「八月の朝」50首で角川短歌賞を受賞し、歌壇の話題をさらう。若い女性の恋心を軽やかにみずみずしくうたった第一歌集『サラダ記念日』(1987)で現代歌人協会賞を受賞。破調などを試みず五・七・五・七・七の定数律の枠組みにおさまりつつも、弾むような口語短歌を鮮やかに展開させた手法がこれまでにないとして、その歌風は「ライトバース」(なるべく平易な言葉で豊かに情調を表現しようとする短歌)と称された。この歌集はやがて歌壇の外側へと大きく広がり、空前の大ベストセラーとなり、俵は国民的歌人となった。
89年(平成1)、4年間勤務した高等学校教諭の職を辞し、文筆業に専念。91年には、自分自身の中の自然な変化を飾らない言葉で綴った第二歌集『かぜのてのひら』を刊行する。第一歌集に対する世間での反響に自分を見失いそうになってしまったが、そんな時に唯一の心の支えだったのがやはり歌作であったことを「あとがき」で述べ、誠実な作歌への意気込みと情熱とを、歌人として特異な状況に置かれた俵自身が再認識していく過程をたどる著作ともなった。
97年には、これまでの俵のイメージを自ら激しく払拭しようとするかのように「不倫」という現代的な男女の情をテーマに据えた第三歌集『チョコレート革命』が刊行される。当代を代表する女性歌人の転身劇が、大きな反響を呼ぶこととなった。次いで本歌集にちなんだ「チョコレート語訳」を、同じく激しい情愛の描かれている与謝野晶子の名歌集で試みた『みだれ髪 チョコレート語訳』(1998)を発表している。難解な部分もある原作を俵万智風に現代語訳してみる、という大胆かつユニークで、奥深さのある書物となっている。
いずれにせよ、俵の歌業は、多くの歌人のみならず現代人、とりわけ若い女性たちにそのつど大きな影響を与え、ひいては短歌人口を増大させてゆくという役割を果たしつづけてきた。ほかに、写真家浅井慎平(1937― )の写真と短歌とを組み合わせた『とれたての短歌です。』(1987)や画家おおた慶文(1951― )との画歌集『花うらない』(1996)など他ジャンルとのコラボレーションの試みも積極的に繰り広げるほか、持ち前 の知性的で軽妙な文体で数々のエッセイや評論を手がけている。『よつ葉のエッセイ』(1989)、『短歌の旅』『俵万智のハイテク日記』(1992)、『短歌をよむ』『日本語はすてき』(1993)、『あなたと読む恋の歌百首』(1997)、『三十一文字のパレット 記憶の色』(2000)など著書多数。
テレビやラジオなどに数多く出演しているが、現代歌人として数多くの人に認められ愛されているという、いつも変わらない印象がある。常に短歌とメディアとのかかわりあい方を現代人に意識的に指し示そうとする、俵の広くて豊かな感受性を見てとれる。
[和合亮一]
『『日本語はすてき』(1993・河出書房新社)』▽『『花うらない――俵万智の贈りもの』(1998・河出書房新社)』▽『『三十一文字のパレット 記憶の色』(2000・中央公論新社)』▽『『サラダ記念日』『かぜのてのひら』『チョコレート革命』『よつ葉のエッセイ』『みだれ髪 チョコレート語訳』(河出文庫)』▽『『短歌の旅』(文春文庫)』▽『『とれたての短歌です。』(角川文庫)』▽『『あなたと読む恋の歌百首』(朝日文庫)』▽『『俵万智のハイテク日記』(朝日文芸文庫)』▽『『短歌をよむ』(岩波新書)』