江戸時代後期に建てられた観音像をまつるための特異な仏堂形式で,〈さざいどう〉ともいう。堂内を3層につくり,右回りの通路にそって百観音や三十三観音などの仏像を安置し,堂内を一巡すれば観音霊場を巡礼したと同じ霊験が得られるようになっている。本来の名称は三匝堂(さんそうどう)(匝は巡るの意味)で,栄螺堂は巡路の形状に由来する俗称である。現存する福島県会津若松市の旧正宗寺の円通三匝堂(1796)は,六角平面で3層の堂内に昇降のスロープを設け,それにそって西国三十三所の観音像を安置する。茨城県取手市の長禅寺観音堂(1763)や群馬県太田市の曹源寺百観音堂(1793)は,方形平面で外観は2層であるが,内部を3層につくり,右回りの通路にそって観音像を巡拝できるようになっている。《江戸名所図会》の記述と挿図によると,本所五丁目(現,江東区大島5丁目)にあった天恩寺五百大阿羅漢禅寺(通称羅漢寺,黄檗宗)の三匝堂(1780ころ完成)は,方形平面で外観を2層,内部を3層につくり,西国(上層),坂東(中層),秩父(下層)の札所の計100体の観音像をまつっており,以後の栄螺堂の手本になったと述べられている。
執筆者:大河 直躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
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