埼玉県西部の市。2005年4月旧秩父市と吉田(よしだ)町,荒川(あらかわ)村,大滝(おおたき)村が合体して成立した。人口6万6955(2010)。
秩父市南部中央の旧村。旧秩父郡所属。人口6382(2000)。秩父山地の山間を占め,北部を東流する荒川沿いには河岸段丘が広がる。集落や耕地は河岸段丘上にあり,秩父鉄道も走る。贄川(にえがわ)は江戸時代に甲州裏街道(秩父往還)の宿駅で,三峰神社,札所巡りの参詣者でにぎわい,六斎市も開かれていた。林業と養蚕が主たる産業であったが,現在は,シイタケ,コンニャクイモの栽培に加え,ブドウ,栗を中心に観光農業の振興が図られている。秩父七湯といわれる鉱泉郷の中心で,日野,柴原,白久などに鉱泉宿がある。秩父鉄道三峰口駅は三峰山,二瀬ダム,小鹿野方面への玄関口である。猪鼻熊野神社は甘酒をかけあう疫病流しの神事〈甘酒祭〉で知られる。
秩父市南部の中西部を占める旧村。旧秩父郡所属。人口1711(2000)。東京都,山梨県,長野県,群馬県と接する。荒川最上流域の山地を占め,甲武信ヶ岳(こぶしがたけ),雲取山はじめ標高2000m級の山々が連なる。雁坂峠(甲州裏街道),十文字峠(信州往還)などの峠は江戸時代までは重要な交通路として使われ,その合流点の栃本には関所が置かれていた。荒川の支流中津川の奥には平賀源内が発見したといわれる秩父鉱山があり,昭和初期から鉄鉱石を中心に亜鉛,鉛,銅などを採掘してきたが,現在は石灰岩とケイ砂のみである。荒川総合開発計画により1961年,多目的の二瀬ダムが建設され,秩父湖が出現した。67年には秩父湖畔から三峰山山頂にある三峰神社に至る有料道路が完成し(現在は無料開放),観光開発が進んだ。雁坂峠で分断されていた国道140号線は,雁坂トンネル有料道路の開通(1998年)で山梨県側と結ばれた。1960年代以降人口流出が著しく,95年の人口数は60年当時の4分の1より少ない。過疎地域に指定されている。
執筆者:千葉 立也
秩父市東部の旧市で,秩父盆地の中心都市。1950年市制。人口5万9790(2000)。708年秩父郡から朝廷に銅が献上され,年号が和銅と改元されたが,その銅の産出地は市域北部の黒谷(くろや)とする説が有力である。妙見祭(秩父夜祭)で有名な秩父神社にちなんで,鎌倉時代から大宮郷とよばれ,江戸時代には忍(おし)藩の大宮陣屋(代官所)が設けられていた。荒川の河岸段丘上に発達したセメントと織物の町で,伝統的な養蚕は衰え,近年は観光ブドウ園も見られる。忍藩の保護を受けて盛んになった秩父絹は,1・6の六斎市や妙見祭の絹大市で人気を集め,明治以降,近代的な柄物の秩父銘仙へ転換して全国に知られたが,今は合成繊維による大衆向けの着尺地と夜具地が主製品である。市街地の南方にそびえる武甲山(1304m)は石灰岩の宝庫で,1914年熊谷方面から秩父鉄道が通じてから本格的な採掘が始まり,セメント工業は秩父の代表的な産業となった。国道140号線と299号線が市街で交わり,69年に西武秩父線が,82年には国道299号線の正丸トンネルが開通したので,都心との交通が便利になり,浦山渓谷,羊山公園,秩父三十四所の札所,和銅公園などを訪れる人が多い。91年オープンした秩父ミューズパークはリゾート開発の拠点となっている。
執筆者:新井 寿郎
秩父市北部の旧町。旧秩父郡所属。人口5992(2000)。秩父盆地の北西部に位置し,荒川の支流吉田川が東流し,東縁を赤平(あかひら)川が北流する。町域の大部分は山地である。中心集落の下吉田は吉田川の谷口集落で,江戸時代には3・8の日に六斎市が立ち,絹やタバコの取引が行われた。農業は畜産が主で,コンニャク,シイタケなども産する。人口の減少が続き,過疎地域に指定されている。戦国時代に始まるといわれる竜勢花火で有名な椋(むく)神社は,秩父事件の際,蜂起した農民の集結地であった。北部は上武県立自然公園に属する。千鹿谷(ちがや)鉱泉(重曹泉,15℃)もあり,近年は観光ブドウ園など観光開発に力を入れている。
執筆者:千葉 立也
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
埼玉県西部にある地方。行政的には秩父市および秩父郡皆野(みなの)、長瀞(ながとろ)、小鹿野(おがの)、横瀬(よこぜ)の4町と東秩父の1村よりなるが、一般的には秩父山地、秩父盆地を含む地域をいう。全体として山地が多く、平地は秩父盆地、荒川およびその支流の赤平(あかびら)川の沿岸にわずかに存在するにすぎない。秩父の名は『続日本紀(しょくにほんぎ)』に武蔵(むさし)国の郡名として載っているのが最初で、知知夫国造(ちちぶくにのみやつこ)の支配下にあったことに由来するといわれる。708年(和銅1)秩父郡からの和銅献上により年号を和銅(わどう)と改めたとされる古い歴史をもつ土地で、平安時代末から中世には秩父氏や武蔵七党の丹(たん)党や児玉(こだま)党に属する諸氏が活躍した。江戸時代、忍(おし)藩の保護と奨励により秩父絹の生産が盛んになり、一、六の市(いち)や秩父神社の大祭には絹市が立った。
耕地は傾斜地が多いため、米、麦の生産は県下でもっとも少ない地域である。かつては養蚕が盛んで、比企(ひき)、大里(おおさと)、児玉の諸郡とともに埼玉県養蚕地帯の一翼を担っていたが現在は衰退している。おもな農産物はコンニャクイモ、シイタケなどである。また、観光客の増加に伴い、観光農園が盛んである。秩父でもっとも中心的な生産物は武甲山(ぶこうざん)(1295メートル)の石灰岩で、武甲山の東側に露頭があり、その埋蔵量は約2億トンといわれ、多くの企業によって採掘され、山容は著しく変化し、荒々しい山肌を示している。これらのうち太平洋セメントの三輪鉱山(みのわこうざん)がもっとも大規模で、露天掘りを行っている。石灰岩は秩父市内の工場のほか、熊谷(くまがや)・日高の工場でセメントにしている。もう一つの中心的な産業は観光である。広く連なる秩父の山々、清冽(せいれつ)な流れの荒川本支流の渓谷など、秩父の観光資源は数多く存在するため、国や県ではこの地域を自然公園として指定しており、秩父多摩甲斐国立公園(ちちぶたまかいこくりつこうえん)、県立武甲自然公園、県立長瀞玉淀(ながとろたまよど)自然公園、県立上武(じょうぶ)自然公園、県立両神自然公園、県立西秩父自然公園がある。このうち秩父多摩甲斐国立公園は、秩父市大滝地区、小鹿野町両神地区の西部を含むもので、三宝山(さんぽうざん)(2483メートル)や甲武信ヶ岳(こぶしがたけ)(2475メートル)の高峰をはじめ、雲取山(くもとりやま)、三峰山(みつみねさん)、両神山などや、雁坂(かりさか)峠、新緑や紅葉の名所として名高い中津峡などがある。武甲自然公園は武甲山をはじめ、橋立鍾乳洞(はしだてしょうにゅうどう)や秩父七湯(しちとう)といわれた鉱泉がある。長瀞玉淀自然公園には、荒川沿岸4キロメートルにわたって続く国指定名勝天然記念物の長瀞や、その下流の玉淀ダムの景勝地がある。これらの景勝地を訪れる観光客は、西武鉄道秩父線の開通(1969)により便利になり、増加している。また、上越新幹線、高崎線の熊谷駅から秩父鉄道で来訪することもできる。
[中山正民]
埼玉県西部、秩父盆地の中心都市。1950年(昭和25)市制施行。1954年原谷(はらや)、尾田蒔(おだまき)、久那(くな)の3村、1957年高篠(たかしの)、大田の2村、1958年影森(かげもり)町を編入。2005年(平成17)秩父郡吉田町(よしだまち)、大滝村(おおたきむら)、荒川村(あらかわむら)を合併。中心市街地は荒川の河岸段丘に位置し、西武鉄道秩父線、秩父鉄道、国道140号、299号が通る。
律令(りつりょう)時代以前には知々夫国造(ちちぶのくにのみやつこ)の支配地で、その後武蔵(むさし)国秩父郡となり、同郡には六郷があった。中心地域は中村郷とよばれていたが、これが江戸時代には大宮郷(おおみやごう)となり、この名が明治末年まで続き、大正時代になって秩父町に改称した。江戸時代は忍(おし)藩の奨励や保護による秩父絹の生産が盛んで、1、6の市(いち)や秩父神社大祭の大市には大きな取引が行われた。秩父絹は江戸時代までは無地の白絹であったが、明治以後、近代的な柄物(がらもの)の銘仙(めいせん)へ転換し、秩父縞(じま)、みやまお召などの高級物をつくった。近年は大衆向けの着尺(きじゃく)地や夜具地などをつくっているが、衣服の変化とともに織物工業は衰え、現在ではわずかしか生産されていない。織物工場跡には電子工業がおこり、これが新しい産業の一つとなっている。市街地の南方にそびえる武甲山(ぶこうざん)は石灰岩の宝庫で、最近では採掘によって山容が大きく変化している。石灰岩を利用したセメントは秩父の代表的工業で、大規模な工場がある。
旧市域には羊山(ひつじやま)公園、武甲山、橋立鍾乳洞(はしだてしょうにゅうどう)、浦山(うらやま)渓谷と秩父さくら湖などのほかに、秩父神社、秩父三十三所、浦山の獅子舞(ししまい)など由緒ある史跡、文化財が多い。12月2、3日に行われる秩父夜祭は「秩父祭の屋台行事と神楽」の名称で国の重要無形民俗文化財およびユネスコの無形文化遺産となっている。合併した大滝地区の三峯神社(みつみねじんじゃ)は日本武尊(やまとたけるのみこと)の登攀伝承をもち、吉田地区は明治の秩父事件発祥の地。面積577.83平方キロメートル(一部境界未定)、人口5万9674(2020)。
[中山正民]
『『秩父市誌』(1962・秩父市)』▽『『秩父市誌 続編 1、2』(1969、1974・秩父市)』▽『『秩父市史』(1999~ ・秩父市)』
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