翻訳|stair
漢籍には見られず、おそらく江戸後期に日本で造語されたものと思われる。それまでは和語で、平安時代は「きざはし」といい、室町になって「きだはし」が現われて併用された。江戸時代は「はしご」が多用されたが、「だんばしご」という語も現われ、明治時代になってから「はしごだん」ともいった。→きざはし・はしご
異なる高さの床面を結ぶ通路で,段々状になったものをいう。傾斜した地盤上につくり出されるものと,建築物の上下階を結ぶ構造物とがある。形状により,直階段,折れ階段,折返し階段,回り階段,らせん階段などに分けられる。ホールなどで床が吹き抜けた部分に設けられる階段には空間の雰囲気を演出する効果があり,さまざまなデザインがなされるが,一般の階段は昇降という機能本位に計画される。
階段は建物の主体構造材料と同じ材料でつくられることが多く,いくつかの典型的な構法がある。
木製の階段は上階との間に掛け渡した桁材に段板を固定して構成する。桁材と段板との組合せ方法により側桁(かわげた)階段,簓桁(ささらげた)階段などの種類がある。側桁階段は側面にいなずま状の溝を切り込んだ桁材を斜めに2本掛け渡し,その間に段板と蹴込み板をはめ込んだもので,住宅にもっとも一般的に用いられている。側桁の上部が幅木の役を果たすので壁との納まりがよい。簓桁階段は上面を段状に刻んだ桁の上に段板を載せて構成したもので,蹴込み板を省略することが多い。軽快な感じを出すことができるが,段裏にでる桁の〈せい〉は側桁階段より大きくなる。木製階段の踏面(ふみづら)は木肌の仕上げとすることが多いが,じゅうたんを敷き込むこともある。
鉄筋コンクリート製の階段は型枠の中に鉄筋を配筋しコンクリートを流し込んで形づくるもので,さまざまな構造のものが可能である。床版と同様にスラブとして十分な強度をもつように設計し,上下階や踊場のはりや床に掛け渡す方式が一般的である。鉄筋コンクリートの一体性を利用し壁から段板を片持式に張り出す方式や,木製と同様に傾斜桁を用いる方式もある。鉄筋コンクリート製の階段は段板,段裏など階段本体のほか,踊場まで連続して一体に構造軀体(くたい)の一部として施工することができ,また容易に耐火構造とすることができるなどの特徴がある。踏面の仕上げにはモルタル塗り,磁器タイル張り,プラスチックタイル張り,ゴムタイル張り,石張りなどがある。
鋼製の階段は軽量であり,プレハブ化でき,建設の早い時点で仮設階段に代わって使用できるという長所があるが,振動しやすく,火災に弱いなどの欠点もある。屋外階段として用いる場合には防錆(ぼうせい)に留意する。高層建築物では上下階の移動はエレベーターがおもに利用され,階段は非日常的な使われ方となるので,軽量化,生産性を重視して鋼製を採用することが多い。ただし,昇降時の発音を防ぐために段板の上面にはモルタルを打つのが一般的である。このほか,屋外の地盤上につくられる階段には石材を積み上げたものなどがある。
階段は日常的に事故の起きやすい場所であり,安全性を重視しなくてはならない。災害時に多数の人間が押し寄せても安全に避難できることが求められる。踏外しなどの事故防止のためには段板の踏面を滑りにくくすべきであり,また事故が重大なものとならないよう急なこう配は避けるべきである。とくに水にぬれて滑りやすくなる材料の使用については注意し,建物の種類と使用場所に応じた材料を選択する。滑止めと摩耗を防ぐ目的で,段板の先端部(段鼻)にノンスリップを設けることが多い。金属,金属とプラスチック,磁器タイルなどの製品があり,段板の材料に合わせて用いられる。ノンスリップの代りに段板に溝を彫ることも行われる。安全性の確保と体重の移動を補助するために手すりが設けられる。側壁がない部分で手すりを支えるために段板に立てられる棒を手すり子といい,落下防止のための重要な部材となるので十分な強度と適切な間隔が必要である。
階段のこう配は踏面寸法と蹴上げ寸法の組合せによって定まる。〈建築基準法施行令〉では,建築物の種類別に階段の幅と踏面寸法の最小値および蹴上げ寸法の最大値を定めており,例えば小学校における児童用の階段は,幅140cm以上,踏面寸法26cm以上,蹴上げ寸法16cm以上としている。ただし,踏面寸法は大きければ大きいほどよいというものではない。昇り降りのしやすい階段とするためには,歩幅に合わせた踏面寸法と蹴上げ寸法との適切な組合せが求められる。この組合せ方法に関しては種々の提案がなされているが,成人用の場合,踏面寸法をT,蹴上げ寸法をRとして,T+2R=63cmなどがよく知られている。高低の大きい階段には,安全のため途中に踏面を広くした踊場が設けられ,建物の種別により3m以内ごとに設けなくてはならない場合と4m以内ごとに設けなくてはならない場合がある。
火災時には,階段は避難,消防活動のための重要な通路となるが,同時に火炎,煙などが上階へ伝わる経路ともなりうる。したがって階数の多い建物や不特定多数の人間が集まる建物では,安全に避難ができるよう階段の構造を計画しなくてはならない。階段を他の部分と耐火部材で区画し,独立した階段室とするのが一般的である。この場合,階段に通ずる出入口は鋼板製などの防火戸とし,火災時には閉鎖していなくてはならない。また避難の方向に開く扉を用いなくてはならない。〈施行令〉では,5階以上の階,または地下2階以下の階に通ずる直通階段は,避難階段,または特別避難階段としなければならないと定めており,避難階段として満足すべき構造を詳しく規定している。さらに15階以上の階,または地下3階以下の階に通ずる直通階段は特別避難階段としなければならないと定めており,屋内と階段室との間に外気に向かって排煙される付室を設け,階段室に煙が進入することを防止し,より安全な避難ができる構造となるようにしている。
執筆者:深尾 精一
階段は,上下の空間を連結するという直接的な機能のほかにも,その段状の構成が示唆する儀式的な性格や,垂直方向の動きにまつわる独自のイメージがあり,しばしば建築空間の中での重要な焦点となる。とくに屋外の階段は,古くから神殿や聖域への導入路として,儀式性を演出するための不可欠の要素となっていた。古代エジプトやメソポタミア,古代メキシコなどでは,これが基壇と密接に結びつき,階段状ピラミッドやジッグラトのような,階段自体がそのまま記念的建造物となったようなものが見られる。古代ギリシアやローマにも外部階段の儀式的特質は受け継がれ,とくに神殿正面と階段とは切り離すことのできないものとなったが,屋外劇場の座席となったり,都市広場での演壇となるなど,しだいに都市空間の構成要素としての重要性も増してくる。これは建物内部にももち込まれ,神殿内の祭壇や玉座などを表示したり,空間の奥行きを表現したりするために用いられるようになった。その一方,建物の上下階をつなぐ内部階段のほうは,構造形式自体としては,ローマ時代までに現存する階段形式の基本はほとんどつくり出されてしまっていたが,その直接的機能から離れて建築表現の対象となることはきわめてまれであった。
中世には階段が重要な役割を演じている例は少ないが,教会堂や公共建築などの前面の階段,教会堂内部の祭壇回りなどには,古代以来の伝統を引き継いだものが見られる。ルネサンス期に,階段は再び豊かな儀式性を回復する。それは古代風の壮大さの直接的再現ではなく,より知的な象徴的手法による再現であった。とくにD.ブラマンテをはじめとする建築家たちによって外部階段に創意が加えられ,都市広場や庭園に新たな秩序感を導入するための手段となる。また内部階段は,空間を縦に貫通する手段として,なかでもらせん階段が建築家の知的関心を集め,上昇感を表現するためのさまざまなくふうが凝らされた。レオナルド・ダ・ビンチの創案になるという,互いにからまりあって上昇する二重らせんの階段も現れたが,しかし,まだ建築の内部空間とは切り離された孤立した部分として扱われており,外部階段の場合のような空間の結節点となることは少なかった。そうした中では,ミケランジェロの設計になるラウレンツィア図書館の階段は,外部階段のもつ儀式的性格を大胆に建築内部にもち込み,同時に空間のはげしい動きを表現した希有な例である。バロックの建築家たちは,こうしたミケランジェロの手法をさらにおし進め,複雑な曲線的要素を取り込み巧みな透視図法的効果を加えた。バロックは,階段がその造形的魅力を最大限に発揮した時代といえる。
近代に入ると,鉄やコンクリートなどの新しい素材を得,より軽快な浮揚感を示唆するさまざまな形式が考案されると同時に,吹抜けや半階ずらし(スキップフロア)などの空間手法とともに用いられることによって,斬新な流動的空間表現がなされるようになった。一方,ファシズムの建築や都市計画などに典型的に見られるように,空疎なこけおどしの大階段の濫用によって,階段の備えていた儀式的特質の陳腐化も見られた。さらにエレベーターやエスカレーターなどの発達は,階段本来の意義を半ば忘れさせ始めており,今後大きく階段の意義が変質していく可能性も考えられる。
執筆者:福田 晴虔
弥生時代の高床住居で,すでに階段が用いられていたことが土器に描かれた絵画などからわかる。登呂その他の弥生・古墳時代の遺跡からは,厚板に段をえぐった形式のものが出土している。神社建築や宮殿では一般に木製階段が用いられ,その構造は,ぎざぎざに段を切り込んだ簓桁と呼ぶ登桁に,方形断面の厚い踏板を並べたものである。その両わきに登高欄と呼ぶ手すりをつけたものと,つけないものがある。石造の階段,すなわち石段は,飛鳥時代に基壇を備えた仏教建築の渡来とともにつくられ始め,切石製の踏段の両側面に三角形の低い壁をつけた単純な形式を用い,ほとんどの場合手すりは設けない。日本の明治以前の建築では,中国やヨーロッパの階段のように,手すりや踏段に装飾をこらしたり,階段の空間的表現を積極的にくふうしたものが発達しなかったが,これは,日本建築では2層以上の楼閣建築であっても,2階以上を実際に使用することが少なかったことや,寺院などの基壇も中国のように高くつくられなかったことによると考えられる。民家の2階へ上がる階段も,明治以前はこう配の急なはしごのようなものが多く,幕末から明治時代にかけて,2階に客座敷をもつ家が普及するに伴って,こう配が緩く,幅も広い階段が生まれた。なお,この時期には階段の側面に戸棚や引出しをつけた箱階段と呼ばれるものが民家で多く用いられている。日本において大規模な石段がつくられたのは山上にある神社や寺院への参道で,古くは自然石を用いたが,江戸時代には,日光東照宮の奥の院参道や,金刀比羅宮(香川県)の参道のように,切石積みの長大な石段がつくられるようになる。なお,階段は古くは階(はし)/(きざはし)と呼ばれ,民家では最近まで〈はしごだん〉〈だんばしご〉と呼んだ。
→梯子(はしご)
執筆者:大河 直躬
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
道路や広場あるいは建造物において、高さの違う部分を結ぶための段形の通路。通路としての機能上の役割のほかに、建築や街を設計するうえで重要な要素となっている。構造材は、屋外では石、コンクリート、鉄が多く、石や木で土止めをした土の階段も用いられることがある。屋内では石、コンクリート、鉄、木で、近年はガラスやプラスチックが用いられることもある。飛行機ではジュラルミンなどの軽合金が使われている。主体となる部分の構造は、地面の上に直接つくられるもののほかは、登り桁(げた)(簓桁(ささらげた)、側桁(わきげた)などという)、踏み板、蹴込(けこ)み板で構成され、いずれの場合も手すりをつけることが多い。踏面(ふみづら)の仕上げには、住宅では板、プラスチックタイル、じゅうたんが、公共的な建築では石、プラスチックタイル、陶磁器タイル、じゅうたんが用いられ、外部では石、コンクリート、陶磁器タイル、れんが、土が使われる。仮設の場合には鉄、木が使われることが多い。踏面の端に安全のために滑り止めの金具を打つことが多くなり、タイルの場合には滑り止めの溝をつけたものが使われる。
階段の個数、幅、踏面および蹴上げの寸法は建築基準法施行令によって規定されている。また、階段の高さが3メートルを超えないように、階段を設ける二つの部分の高低差が3メートル以上ある場合には、途中に踊り場とよぶ平面部分を設けて階段をくぎるように規定されている。
形状は、人の流れを考慮した駅構内、建物などの入口、歩道橋などは直進階段、公共的な建物では端や外壁に接して設けられるので全折れ階段、劇場、デパート、宮殿など視覚効果をねらう場合には中空の幾何的階段や回り階段、面積が狭いところでは螺旋(らせん)階段が使われる。
[平井 聖]
日本では弥生(やよい)時代に梯子(はしご)とともに、1本の角材に段を刻んだものが用いられ、古代の建築では、角材をずらしながら横に重ねた階段や、側板で踏み板を支えた階段が使われるようになった。また、外部では塼(せん)(方形・長方形の厚い平板状の焼成粘土製品)や石の階段が建造物の基壇に登るために用いられている。その後構造的にも意匠的にもほとんど変化がなく、江戸時代になると町屋(まちや)に多く用いられた下部が戸棚や引出しになっている箱階段がつくられたほか、引き上げて階段の所在をわからなくした二条陣屋の階段や、側板を曲線状にした聴秋閣(横浜市の三渓園内)の階段のような特殊なものが現れた。明治以降は変化が激しいが、それは欧米からの影響によるものである。
中国大陸においても階段は日本と同じく変化に乏しいが、外部・内部ともに権威を象徴するために効果的に使われている。主として宮殿において、重要な建物には高い基壇を用い、装飾的な手すりのついた階段を繰り返し象徴的に用いている。さらに正面中央の階段には、皇帝の通路として竜を彫刻した巨大な石の板を敷くなどの手法がみられる。室内においても、玉座に同様な効果をねらった階段がつけられている。
古代メソポタミアでは紀元前3000年ころから、高い基壇の上に建つ長方形平面の神殿がつくられ、さらに何段も基壇を重ねたジッグラトzigguratとよぶ建造物ができた。前2030年ころにつくられたウル第3王朝のジッグラトには正面に壮大な階段がみられる。古代ギリシア建築では、神殿などの周囲を巡って数段の階段状の基壇が用いられるのが常であったが、その後の古代ローマ建築をはじめ、ヨーロッパにおける中世の建築や都市では、階段を象徴的に使うことは少なく、教会堂や城郭、宮殿などでは実用的な性格が強かった。
ルネサンス期以降になると、視覚的効果を求めて都市、公園、建築において階段がふたたび重要な役割を果たすようになる。ルネサンス期からバロック期の例には、ローマの町を特徴づけるスペイン広場やカンピドリオの丘の階段、ブロア城館のフランソア1世の大階段やシャンボール城館の中央の二重階段のようなフランスのロアール地方に建つ多くの城館にみられる螺旋階段、とくに視覚的効果をねらったロレンツォ図書館控え室の階段(フィレンツェ、ミケランジェロ設計)やサン・ピエトロ大聖堂の正面わきからバチカン宮殿に通じるスカラ・レジア(ローマ、ベルニーニ設計)、ベルサイユ宮殿の内外を特徴づける階段(マンサール設計)、ブルックザール宮階段室(ノイマン設計)などがある。バチカン宮殿のスカラ・レジアは、登るにしたがって幅が狭くなり、ボールト天井までの高さが減じていくので実際以上に長く見え、光線の効果と相まって荘重な雰囲気をつくりだしている。19世紀の建築ではパリのオペラ座の大階段(ガルニエ設計)が著名で、近代建築では、グロピウスがケルンの展示会に出品したモデル工場事務所の正面両端に設けたガラス張りの螺旋階段は新しい建築美を象徴するものといえよう。
[平井 聖]
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出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
出典 リフォーム ホームプロリフォーム用語集について 情報
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
…旅籠(はたご)や遊廓の建築でも,二階に客室を設けるものが多くなった。このように二階座敷が普及し始めると,階段もそれまでの急勾配のものからゆるい勾配のものに改められ,町家等では階段の側面に引出しを組みこんだ箱階段も採用された。農家もほとんどは平屋であった。…
※「階段」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
〘 名詞 〙 年の暮れに、その年の仕事を終えること。また、その日。《 季語・冬 》[初出の実例]「けふは大晦日(つごもり)一年中の仕事納(オサ)め」(出典:浄瑠璃・新版歌祭文(お染久松)(1780)油...
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